動脈壁の構造には2つの重要な特性がある。弾性と収縮性である。弾性は豊富な弾性成分により、収縮性は平滑筋によるものである。これらの成分は(内から外に)3つの層に配置されている。すなわち内膜(Tunica intima)、中膜(Tunica media)、および外膜(Tunica externa)である。中膜では成分が横走しており、大部分が平滑筋線維からなるため筋層(Muscularis)とも呼ばれる。これに対し、内膜と外膜の成分は主に縦走している。内膜と中膜の境界部には、生子板のようなしわのある内弾性板(Lamina elastica interna, elastische Innenhaut)がある。外膜との境には、より薄い外弾性板(Lamina elastica externa)が形成されている(RK605(脳軟膜の小動脈)、RK606(ヒトの固有掌側指動静脈)、607(ヒトの耳下腺リンパ節の小動脈) )。ただし、外弾性板は必ずしも存在するとは限らない。
RK606(ヒトの固有掌側指動静脈)、607(ヒトの耳下腺リンパ節の小動脈)
血管はその口径により3つに分類できる。1. 非常に細い動脈と比較的細い動脈、2. 中太の動脈、3. 太い動脈である。
もう1つの分類法は、筋成分と弾性成分の割合による。a) 弾性型動脈(Arterien vom elastischen Typus):大動脈、鎖骨下動脈、頚動脈、腸骨動脈、肺動脈の葉間分枝。b) 筋型動脈(Arterien vom muskulösen Typus):比較的小さい動脈。本稿では前者の分類法に従う。
毛細管系に移行する直前の小さい動脈の内膜(Intima kleiner Arterien)は、1層の細長い紡錘形の内皮細胞(RK088(動脈の内皮)、089(リンパ管の内皮) )からなり、これが内弾性板に直接付着している。内弾性板は非常に細い動脈では密接した弾性線維からなる。比較的大きい動脈では弾性線維が融合し、いわゆる弾性膜または有窓膜を形成する(RK071(項靭帯(項中隔))、072(弾性板) )。最も細い動脈の中膜は1層の平滑筋だが、やや大きな動脈では輪走する重層の平滑筋からなる。外膜は線維性の結合組織と細い弾性線維で構成される。外膜は明確な境界がなく、血管を周囲の組織に固着させる結合組織へと移行する(RK606(ヒトの固有掌側指動静脈)、607(ヒトの耳下腺リンパ節の小動脈) )。
RK606(ヒトの固有掌側指動静脈)、607(ヒトの耳下腺リンパ節の小動脈)
中太の動脈は数も多く、前述の細い動脈に比べて内膜が厚い。内皮と内弾性板の間に縦に条の見える結合質があり、扁平で円形または星状の結合組織細胞と、縦に伸びた薄い弾性網を含む。しかし、この条の見える層は腹腔動脈、腸間膜動脈、腎動脈、外腸骨動脈など、多くの動脈で欠如している。中膜は動脈の太さが増すにつれて急激に厚みを増す。中膜は輪走する平滑筋層だけでなく、平滑筋層が弾性線維や弾性板からなる粗い網で貫かれている。各動脈にはこの2つの成分が様々な強さで存在し、腹腔動脈、橈骨動脈、大腿動脈では平滑筋が優勢だが、頚動脈、腋窩動脈、総腸骨動脈では弾性組織が優勢である。外膜も厚みを増し、その弾性線維は中膜との境界で中膜の弾性成分と連続する比較的密な層を形成する。これを外弾性板(elastische Außenhaut)という。さらに、外膜には散在性の縦走する平滑筋が束や網を形成している。
太い動脈では、内膜の内皮細胞は短い多角形に近づく。内皮の外側に接する条のある結合質の層は、中太の動脈と同様の状態を示す。その中に含まれる弾性線維網は、中膜に向かってその密度を増し、内弾性板へと移行する。筋層全体は同心円状に配列した強い弾性線維網と有窓膜を含み、これらの弾性成分は斜めに走る結合板によって互いに連なり、または叉状に分岐している。例えば、胸大動脈の中央部を横断すると、一部は離れ一部は連続している輪走の平滑筋層と有窓弾性膜が、それぞれ25枚も交互に重なり合い、最後に外膜がその外側を包んでいる。この外膜は平滑筋細胞が少なく、中膜との境界に密な弾性網を欠いていることで、前述した中太の動脈の外膜と区別される。
動脈壁には小さい動脈と静脈、すなわち脈管の血管(Vasa vasorum)が貫いて走っている(RK606(ヒトの固有掌側指動静脈)、607(ヒトの耳下腺リンパ節の小動脈) )。詳細に観察すると、各動脈小枝が2つの静脈を伴っている。これらの小さい動脈は、壁の中を走っている動脈から直接分岐するのではなく、この動脈の枝か、あるいは近隣の動脈から発生する。これらの血管は動脈鞘の中で網を形成し、外膜と中膜の外層に分布している。
リンパ管は現在まで動脈壁内に確実には認められていないが、内膜の下と筋層には存在する可能性がある。しかし、多くの動脈はリンパ管に取り巻かれたり、脈管周囲リンパ腔内に位置したりしている(リンパ管の項参照)。
動脈は豊富な神経支配を受けており、特に運動性神経が多いことは筋層の存在からも示唆される。脈管神経(Gefäßnerven)と呼ばれるこの神経は、主に交感神経系から、一部は脳神経と脊髄神経から由来する。その線維は多くが無髄性である。この神経は比較的太い血管の周囲で神経叢を形成し、多くはかなり太い無髄線維からなる細い神経糸として細い脈管と共に走行する。ただし、特に比較的大きい動脈では有髄線維も観察される(Ph. Stöhr jr. 1928, Handb. mikr. Anat.)。
Ranvierによれば、動脈には3つの異なるが相互に連携した神経叢が区分できる。外方または基礎的(fundamental)なものは外膜に、中間または筋周囲性(Perimuskulär)なものは筋層の外周に、終末または筋内性(intramuskulär)なものは筋層の内部に広がっている。
Stöhr jr.は後の2つの神経叢を確認できなかった。Joris(1906)によると、これら3つの神経叢の線維は運動性である。
Jorisによれば、運動性線維に加えて知覚性線維も存在する。これらも脈管周囲神経叢から発生するが、運動性神経叢とは独立している。この線維は一般に短く蛇行し、多数の側枝を出して知覚終板となり、外膜と筋層で終わる。この終板は周囲との境界が明瞭で、小さな瘤状の膨らみを持つ線維で構成されている。Stöhr jr.は、小動脈、特に毛細血管に分岐する直前に多数の知覚神経終末装置が存在すると報告している。
動脈の径が細くなるにつれて、神経線維の量も減少する。筋層が単層の平滑筋からなる血管では、2つの運動性神経叢のみを持ち、1つは外膜に、もう1つは筋線維間に位置する。さらに、後者から神経原線維網(Neurofibrillengitter)と神経終末細網(nervöses Terminalretikulum)が生じる。知覚終末も同様に減少する。
Voss(Z. mikr. anat. Forsch. 57. Bd. 1951)は、小動脈内に紡錘形の構造物が存在し、動脈腔内で遊離し、細い茎で動脈壁とつながっていると報告している。この構造物は内皮に覆われ、弾性膜、平滑筋線維、および結合組織を含むという。