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食道の壁は3~4mmの厚さがあり、粘膜Tunica mucosa、粘膜下組織Tela submucosa、筋層Tunica muscularisから構成されている。
粘膜は咽頭や胃の粘膜よりも白っぽい色をしている。壁が伸展されていないとき、粘膜は縦走する複数のひだを形成し、これに囲まれた内腔は横断面で星形を呈する。このひだは食道の壁を横に引っ張ると消失する。
粘膜の上皮は重層扁平上皮で、胃との境界で急激にその性状が変化する。食道腺Glandulae oesophagicaeと呼ばれる小さな粘液腺が粘膜に多数散在しており、その腺体は粘膜下組織にまで達している。さらに小さい腺で粘膜固有層に限局するものが食道の下端部に特に密集しており、また(約70%の症例で)食道上部の輪状軟骨下縁と第5気管軟骨の間にも見られる。また、粘膜下組織には少数のリンパ小節が存在する。
上皮の下には固有層Lamina propriaがあり、その上皮に面した表面には乳頭だけでなく、縦方向に伸びた稜線状の高まりLängsleistenも存在する。この高まりの縁から円錐形の乳頭が突出している。固有層の外面に接して、縦走する平滑筋線維が集まった顕著な1層(粘膜筋板Lamina muscularis mucosae)があり、これは粘膜が形成するすべてのひだの中にまで入り込んでいる。
粘膜下組織Tela submucosaは疎な性質を持ち、粘膜と筋層Tunica muscularisとの間を可動性のある状態で結合している。筋層は外側のより発達した縦層と内側の輪層から構成されており、両層とも食道上部では横紋筋線維からなるが、食道全長の上から4分の1と2分の1の境界付近で、横紋筋が平滑筋へと移行する。この移行は食道の前壁で最初に始まる。
縦走する筋層は輪状軟骨の後面で、弾性に富む三角形の線条部を介して起始する。これに咽頭口蓋筋につながる側方の弱い縦走束が混じっている。常に存在するとは限らない平滑筋束として気管支食道筋M. bronchooesophagicusと胸膜食道筋M. pleurooesophagicusがある。前者は左気管支の膜性壁から、後者は左胸膜の縦隔部から起始する。
食道は周囲の器官と非常に疎な結合組織によって連結されている。筋層の縦走筋と輪走筋の間で神経の細い幹が網を形成し、この網には所々に神経節が存在する。この構造は既に咽頭でも観察される。(アウエルバッハ神経叢Auerbachscher Plexusの項を参照。)食道の上皮には上皮内神経終末が存在する。
Laimerによると、輪走筋は完全な輪を形成しているのではなく、螺旋状に走行しているという。また同じくLaimerの報告では、食道の筋肉が最も脆弱な部位は起始部の後壁、すなわち咽頭のすぐ下方であるとされている。
[図90]ヒトの食道中部の横断面
*粘膜下組織内の粘液腺