歯は硬質で、単一または分岐した根を持ち、顎骨の歯槽に埋め込まれている。人間には二組の歯が順次生えてくる。すなわち乳歯(Dentes decidui, Milch- oder Wechselzähne)と永久歯(Dentes permanentes, bleibende Zähne, Ersatzzähne)である。乳歯は上下顎にそれぞれ10本、計20本あり、永久歯は上下顎にそれぞれ16本、計32本ある。つまり、両顎合わせて52本の歯が生じる。
すべての歯は3つの部分から構成される。歯肉の外に突き出ている歯冠(Corona dentis, Zahnkrone)、歯肉に包まれている歯頚(Collum dentis, Zahnhals)、歯槽内に埋まっている歯根(Radix dentis, Zahnwurzel)とその枝である歯根枝(Rami radicis dentis)である。歯根の先端は歯根尖(Apex radicis dentis, Wurzelspitze)または歯根枝尖(Apex rami radicis)として終わる。
すべての歯の内部には歯髄腔(Cavum dentis, Zahnhöhle, Markhöhle)という空洞があり、これを満たす歯髄(Pulpa dentis, Zahnmark)は血管と神経に富む軟性結合組織である。歯髄腔の延長が歯根を貫く部分は歯根管(Canalis radicis dentis, Wurzelkanal)または歯根枝管(Canalis rami radicis)と呼ばれる。この管が歯根先端で開く箇所は歯根尖孔(Foramen apicis dentis)または歯根枝尖孔(Foramen apicis rami radicis)である。歯髄腔の形状は、全体的にその歯の形に類似している(図032(歯の縦断研磨標本)、033(エナメル質の接合層)、034(大きな球間区))。
すべての歯と歯冠には5つの面が区別される。咀嚼面(Facies masticatoria, Schneidekante oder Kaufläche)、唇面または頬面(Facies labialis, buccalis, Lippen- oder Wangenfläche)、舌面または口蓋面(Facies lingualis, palatina, Zungen- oder Gaumenfläche)、そして2つの接触面(Facies contactus, Berührungsflächen)である。接触面は、切歯と犬歯では内側面と外側面(Facies medialis, lateralis)、小臼歯と大臼歯では前面と後面(Facies anterior, posterior)である。(内側面と前面を近心面、外側面と後面を遠心面という。(小川鼎三))
歯を構成する硬質物質は、歯髄腔を取り囲む象牙質(Substantia eburnea, Dentin, Zahn- oder Elfenbein)と、これを覆う2つの物質からなる。
1つは歯冠部を占めるエナメル質(Substantia adamantina, Schmelz, Email)であり、もう1つは歯の表面でエナメル質を覆っていない部分、すなわち歯頚と歯根を被覆するセメント質(Substantia ossea, Zement, Wurzelrinde)である。まだあまり使用されていない歯では、エナメル質の露出面に歯小皮(Cuticula dentis, Schmelzoberhäutchen)という、石灰化していないが抵抗力の強い薄膜が付着している。
セメント質の外側は歯根膜(Periodontium, Wurzelhaut)で包まれている。これは血管を含む結合組織の膜で、歯根と歯槽壁の間に入り込み、歯槽壁の内面を被覆する骨膜となっている。したがって、これを歯槽骨膜(Periosteum alveolare, Alveolarperiost)とも呼ぶ。
歯の形態学的な区別(morphologische Unterschiede)。人間の歯は異型歯(heterodont)である。つまり、個々の歯が著しく異なる形態を呈している。そこで切歯(Dentes incisivi, Schneidezähne)、犬歯(Dentes canini, Eckzähne)、小臼歯(Dentes praemolares、2つの咬頭を咀嚼面に持つので双咬頭歯Dentes bicuspidatiともいう、Backenzähne)、大臼歯(Dentes molares、3つ以上の咬頭を持つので多咬頭歯Dentes multicuspidatiともいう、Mahlzähne)に分類される。
これら各種の歯について、永久歯は上下それぞれ1側に切歯が2個、犬歯が1個、小臼歯が2個、大臼歯が3個である。乳歯は小臼歯を完全に欠き、大臼歯が2個のみである。(乳歯では小臼歯とか大臼歯とかいわず、乳臼歯というのが一般的である。(小川鼎三))
概観を容易にするため、いわゆる歯式(Zahnformel)によって各種の歯の数を模式的に表す。通常は全歯の半側(左側)のみを示す。横線より上は上顎の歯、下は下顎の歯を表す。
永久歯の歯式:
J2. C1. PS. M3
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J2. C1. PS. M3
乳歯の歯式:
J2. C1. M2
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J2. C1. M2