真皮 Dermis
解剖学的構造と臨床的意義
真皮は表皮を支える厚さ0.5〜3mmの強靭な交織性緻密結合組織層です。縦横に織り込まれた膠原線維束(主にI型コラーゲン)と弾性繊維のネットワークで構成され、皮膚の強度と弾力性を担保しています(McGrath et al., 2010)。解剖学的に真皮は上部の乳頭層(stratum papillare)と下部の網状層(stratum reticulare)に区別され、両者は組織構造と機能が異なります。
【乳頭層】表皮直下に位置し、厚さは全真皮の約1/5を占めます。真皮乳頭(dermal papillae)が表皮に向かって突出し、表皮と真皮の接合面積を増大させることで両者の結合を強化しています。この層では細い膠原線維(Ⅲ型コラーゲン主体)と弾性線維が疎に配列し、豊富な毛細血管網、リンパ管、知覚神経終末を含みます(Kanitakis, 2002)。
【網状層】乳頭層の下方に広がり、真皮の主体(約4/5)を占める層です。太い膠原線維束(I型コラーゲン主体)と弾性線維が密に交織し、線維束は主に皮膚表面に平行に走行します。この層には発汗腺、毛包、脂腺などの皮膚付属器の大部分が埋め込まれています(Ross and Pawlina, 2016)。
真皮の細胞・組織成分は以下の通りです:
- 細胞成分:①線維芽細胞・線維細胞(全細胞の約65%)—コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカンを産生、②マクロファージ(約10%)—免疫監視と異物貪食、③樹状細胞(約3%)—抗原提示、④肥満細胞(約7%)—炎症・アレルギー反応、⑤血管内皮細胞(約10%)、⑥平滑筋細胞(約5%)—立毛筋や血管壁を形成(Sorrell and Caplan, 2004)
- 細胞外マトリックス:①コラーゲン線維(真皮乾燥重量の70%)—皮膚の強度を担保、②弾性線維(約2%)—伸展性と弾力性を付与、③グリコサミノグリカンとプロテオグリカン(約0.2%)—ヒアルロン酸やデルマタン硫酸などを含み、水分保持と組織の浸透圧調節に寄与(Naylor et al., 2011)
真皮の血管系は機能的に2層構造を形成しています(Braverman, 2000):
- 深部血管叢(deep vascular plexus):真皮・皮下組織境界部に位置し、皮下組織の大血管から分枝した動静脈で構成されます。網状層下部を水平方向に走行し、汗腺や毛包下部への血液供給と、真皮上部への血管分枝を担います。
- 浅部血管叢(superficial vascular plexus):乳頭層と網状層の境界部に位置し、水平方向に広がるネットワークを形成します。ここから乳頭層へ垂直に立ち上がる終末細動脈が分岐し、各真皮乳頭内でヘアピン状のループを形成(毛細血管ループ)して表皮基底膜直下まで到達します(ただし表皮には侵入しない)。
特筆すべき血管構造として、真皮には多数の動静脈吻合(AVA: arteriovenous anastomoses)が存在します。特に指先、掌蹠、顔面、耳介などに豊富で、「糸球体(glomus)」と呼ばれる特殊な短絡路を形成します。これらは交感神経支配を受け、血流の迅速な調節により体温維持に重要な役割を果たします(Charkoudian, 2003)。寒冷環境では収縮して皮膚血流を減少させ熱保存に、高温環境では拡張して血流増加と熱放散を促進します。
真皮の神経支配は極めて豊富で、以下の2系統が存在します(Hendrix and Peters, 2007):
- 自律神経系(主に交感神経):無髄C線維が主体で、血管平滑筋、立毛筋、汗腺などを支配します。血管運動(vasomotion)、発汗、立毛反射などの調節を担います。
- 体性感覚神経系:有髄Aβ・Aδ線維および無髄C線維からなり、様々な皮膚感覚(触覚、圧覚、振動覚、痛覚、温度覚など)を伝達します。
皮膚感覚を担う神経終末には以下の代表的なものがあります(Zimmerman et al., 2014):
- 自由神経終末(free nerve endings):最も多く存在する非被覆性終末で、主に無髄C線維と有髄Aδ線維の終末です。表皮内や真皮上層に分布し、痛覚、温度覚、かゆみなどの伝達を担います。損傷や炎症時にはブラジキニン、プロスタグランジン、サブスタンスPなどの発痛物質に反応します。
- 層板小体(Pacinian corpuscles):径0.5〜2mmの大型の被覆性触覚受容器で、真皮深層から皮下組織に存在します。玉葱状の層状構造を持ち、中心の有髄Aβ線維が急速な圧迫変化(振動)に反応します。振動周波数60〜300Hzに最も感度が高く、振動覚の知覚に重要です。
- 触覚小体(Meissner corpuscles):乳頭層に存在する被覆性触覚受容器で、無毛皮膚(特に指先、口唇、外陰部など)に多く分布します。急速順応性で、軽い接触や振動(5〜50Hz)に反応し、物体表面の質感識別に重要です。加齢とともに減少し、触覚の鈍化に関与します。
- メルケル細胞-神経複合体(Merkel cell-neurite complexes):表皮基底層に位置するメルケル細胞と、それに接する有髄Aβ線維終末からなります。遅順応性で持続的な圧迫や触刺激を感知します。物体の形状や質感の識別に重要で、特に指先の精密な触覚に関与します。