内耳血管 Vasa sanguinea auris internae
内耳血管は、内耳の構造に血液を供給する精密な血管系です。解剖学的構造と臨床的意義は以下の通りです(Nakashima et al., 2003; Axelsson, 1988):
解剖学的特徴
- 迷路動脈(A. labyrinthi):内耳への主要な動脈供給源で、前下小脳動脈または脳底動脈から分岐します(Schuknecht, 1993)
- 蝸牛動脈(A. cochlearis):蝸牛軸を通って走行し、蝸牛殻の各回転に血液を供給します
- 前庭動脈(A. vestibularis):卵形嚢、球形嚢、半規管膨大部に分布します
- 内耳静脈(V. auris internae):内耳から血液を集め、後頭蓋窩の静脈洞に還流します(Santos-Sacchi, 2001)
微小血管構造
- 血管条(Stria vascularis):蝸牛管の外側壁に位置し、毛細血管に富んだ上皮組織で、内リンパ液の産生と電解質バランスの維持に関与しています(Wangemann, 2006)
- 螺旋靭帯毛細血管網(Spiral ligament capillary network):蝸牛管の外側壁を支持し、血管条への血液供給を担っています
- 半規管血管網:三半規管の機能を支える微小循環系で、平衡感覚の維持に重要です(Kimura, 1986)
機能的意義
- 内リンパ恒常性:血管条は内リンパの高カリウム・低ナトリウム環境の維持に必須です(Hibino et al., 2010)
- 酸素・栄養供給:有毛細胞など感覚受容器への酸素と栄養素の供給を担っています
- 老廃物除去:代謝産物の除去により内耳環境の恒常性を維持します
臨床的意義
- 内耳循環障害:突発性難聴やメニエール病などの内耳疾患の病態生理に関与しています(Merchant et al., 2005)
- 加齢性変化:加齢に伴う血管条の萎縮や微小循環障害は老人性難聴の原因となります
- 薬物毒性:アミノグリコシド系抗生物質などの薬剤は内耳血管の透過性に影響を与え、聴覚障害を引き起こす可能性があります(Rybak and Ramkumar, 2007)
- 血管疾患:高血圧、糖尿病、動脈硬化などの全身性血管疾患は内耳血管系にも影響を及ぼし、聴覚・平衡機能障害のリスク因子となります