前半規管 Ductus semicircularis anterior
前半規管(anterior semicircular duct、別名:上半規管 superior semicircular duct)は、内耳の膜迷路系に存在する3つの半規管の一つです。解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです(Curthoys et al., 2017):
1. 解剖学的特徴
- 位置:側頭骨錐体部内に位置し、垂直面に配置されています(Della Santina et al., 2005)
- 方向:錐体長軸に対してほぼ直角(90°)に位置し、頭部の前額面とおよそ37〜45°の角度を形成しています(Blanks et al., 1975)
- 構造:直径約0.3mmの膜管で、周囲を外リンパ液で満たされた骨半規管内に浮遊しています(Curthoys and Oman, 1987)
- 内部:内リンパ液で満たされており、その一端に膨大部(ampulla)があります(Lysakowski and Goldberg, 2004)
- 膨大部稜(crista ampullaris):膨大部内に存在する感覚上皮で、有毛細胞とその支持細胞から構成されています(Goldberg et al., 2012)
2. 機能と生理学
- 主に矢状面(前後方向)における頭部の回転運動を検出します(Highstein et al., 2004)
- 内リンパ液の動きが膨大部稜の有毛細胞を刺激し、平衡覚情報を生成します(Eatock and Songer, 2011)
- 前庭神経の上前庭神経枝を介して、情報を脳幹へ伝達します(Cullen, 2012)
- 前半規管と対側の後半規管は機能的に対をなし(push-pull機構)、相補的に働きます(Dickman, 2016)
3. 臨床的意義
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV):前半規管型BPPVは全BPPVの約2%を占め、特徴的な眼振パターンを示します(Honrubia et al., 1999)
- 前半規管裂隙症候群:骨迷路に裂隙が生じ、圧力や音の刺激でめまいや平衡障害を引き起こします(Minor, 2000)
- メニエール病:内リンパ水腫により半規管機能に影響が及び、回転性めまいを生じます(Foster and Breeze, 2013)
- 前庭神経炎:主に上前庭神経が障害されると、前半規管機能低下により特徴的な眼振が生じます(Halmagyi et al., 2010)
前半規管は後半規管および外側半規管と協調して働き、三次元空間における頭部の動きを正確に検出することで、平衡感覚の維持と空間定位に不可欠な役割を果たしています(Angelaki and Cullen, 2008)。前庭眼反射や前庭脊髄反射の重要な入力源となり、姿勢の安定や視線の固定に貢献しています。
参考文献