卵形嚢 Utriculus vestibularis
卵形嚢は、内耳の前庭系に属する重要な構造で、解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです(Curthoys et al., 2018):
解剖学的特徴
- 位置:膜迷路の前庭部において球形嚢の上部に位置し、ほぼ水平位をとる楕円形の袋状構造です(Schuknecht and Gulya, 2010)
- 形態:長径約3mm、短径約2mmの扁平な嚢状構造で、内リンパ液で満たされています(Li and Hoffman, 2019)
- 連絡:3本の半規管(前半規管、後半規管、外側半規管)の根元に位置し、5つの開口部(3つの半規管脚部、内リンパ管、卵形嚢球形嚢管)を持ちます
- 感覚上皮:前壁から前外側壁にかけて卵形嚢斑(macula utriculi)と呼ばれる約2.5mm×1.5mmの楕円形の感覚上皮が存在します(Uzun-Coruhlu et al., 2007)
- 微細構造:卵形嚢斑には有毛細胞(I型およびII型)と支持細胞が存在し、有毛細胞の毛束は耳石膜に埋め込まれています(Lysakowski and Goldberg, 2008)
- 耳石器官:耳石膜(炭酸カルシウムの結晶である耳石を含む)が有毛細胞の感覚毛の上に位置し、直線加速度の検出に重要な役割を果たします(Lundberg et al., 2015)
- 神経支配:前庭神経の上前庭神経が支配し、その細胞体は前庭神経節(スカルパ神経節)に存在します(Highstein and Holstein, 2012)
生理的機能
- 重力感知:主に静的平衡覚を担当し、頭部の空間における位置や直線加速度を感知します(Goldberg et al., 2012)
- 線形加速度検出:前後・左右・上下の直線運動の加速度変化を検知します(Jamali et al., 2009)
- 眼球運動制御:前庭眼反射を介して眼球運動の調節に関与します(Angelaki and Cullen, 2008)
臨床的意義
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV):耳石が卵形嚢から剥離して半規管に迷入することで発症する最も一般的な末梢性めまい疾患です(von Brevern et al., 2015)
- メニエール病:内リンパ水腫により卵形嚢の機能が障害され、めまい、耳鳴り、難聴などの症状が引き起こされます(Lopez-Escamez et al., 2015)
- 前庭神経炎:卵形嚢の神経支配が障害され、急性の回転性めまいを引き起こします(Strupp and Brandt, 2009)
- 宇宙酔い:微小重力環境下では卵形嚢からの入力が変化し、宇宙酔いの一因となります(Clément and Reschke, 2018)
- 前庭機能検査:卵形嚢機能は主観的視性垂直位検査(SVV)や前庭誘発筋電位検査(VEMP)により評価できます(Rosengren et al., 2019)