前骨膨大部 Ampulla ossea anterior
前骨膨大部は、内耳の迷路系を構成する重要な解剖学的構造です (Gray and Williams, 2000)。詳細な解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです:
解剖学的特徴
- 膜迷路系の一部で、前(上)半規管の膨大部に位置しています (Schuknecht, 1993)
- 骨迷路内の前半規管骨部の拡張部分として、内部に前膜迷路膨大部を含んでいます (Lang, 1992)
- 直径約1.5mmの球状の膨隆として観察されます (Netter, 2018)
- 外側膨大部の前上方約2mm、卵形嚢の上方に位置しています (Spalteholz, 1922)
- 内部には感覚毛を持つ有毛細胞と支持細胞からなる前膨大部稜(crista ampullaris)を含んでいます (Standring, 2015)
機能と生理学
- 前半規管とともに矢状面(前後方向)の角加速度を検出します (Curthoys and Halmagyi, 1995)
- 膨大部稜の有毛細胞が内リンパ液の動きを感知し、前庭神経の前半規管枝を介して脳幹に信号を伝達します (Highstein et al., 2004)
- 水平・垂直回転運動の検知において重要な役割を果たし、眼球運動の制御に関与します (Lysakowski and Goldberg, 2004)
- 空間定位、姿勢制御、平衡感覚の維持に不可欠です (Khan and Chang, 2013)
臨床的意義
- 前半規管型良性発作性頭位めまい症(BPPV)の病変部位となることがあります (Epley, 1992)
- 前庭神経炎では、前膨大部からの求心性信号が障害され、特徴的な眼振パターンを示します (Strupp and Brandt, 2009)
- メニエール病では、内リンパ水腫により膨大部の機能が障害されます (Nakashima et al., 2016)
- 前半規管機能検査(vHIT: video Head Impulse Test)で評価可能です (MacDougall et al., 2009)
解剖学的名称としては、ラテン語でAmpulla ossea anteriorまたはAmpulla ossea superiorと呼ばれ、英語ではAnterior bony ampullaと表記されます (Federative Committee on Anatomical Terminology, 1998)。日本語では「前膨大部」「上骨膨大部」などの同義語も用いられます。発生学的には耳胞から分化し、胎生期の初期から形成が始まります (O'Rahilly and Müller, 2006)。
参考文献