アブミ骨筋 Musculus stapedius
アブミ骨筋は、中耳に位置する最小の横紋筋で、耳小骨筋の1つです。その解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです(Gray and Williams, 2020):
1. 解剖学的特徴
- 起始:錐体骨内の小さな腔(アブミ骨筋腔)から起始します(Standring, 2023)。
- 走行:錐体隆起(eminentia pyramidalis)の尖端に開口する小管から出て、ほぼ水平に前方へ向かいます。
- 停止:アブミ骨頭の後面に付着します(Drake et al., 2019)。
- 神経支配:顔面神経(第VII脳神経)のアブミ骨筋枝によって支配されています(Moore et al., 2022)。
- 血液供給:鼓室後動脈(posterior tympanic artery)と茎乳突動脈(stylomastoid artery)からの分枝を受けます。
2. 機能
- 音響反射(acoustic reflex):大きな音に反応して収縮し、アブミ骨を後方に引き、卵円窓に対する圧力を減少させます(Møller, 2020)。
- 内耳保護:85dB以上の強い音に対して反射的に収縮し、過度の振動が内耳に伝わるのを防止します(Musiek and Baran, 2018)。
- 自声強調(自分の声を聞きやすくする):発声時に収縮し、自分の声の伝導を調節します(Raphael et al., 2021)。
3. 臨床的意義
- 顔面神経麻痺:ベル麻痺やRamsay Hunt症候群などで顔面神経が障害されると、アブミ骨筋麻痺を引き起こし、聴覚過敏(hyperacusis)が生じることがあります(Jackler and Brackmann, 2019)。
- 音響反射検査:アブミ骨筋反射は、聴覚検査において中耳機能や顔面神経機能の評価に利用されます(Katz et al., 2022)。
- 耳硬化症:アブミ骨の固着によって筋の機能が制限され、音響反射が消失することがあります(Merchant and Nadol, 2022)。
アブミ骨筋は、鼓膜張筋とともに耳小骨筋を構成し、中耳の音の伝達を精密に調節する重要な役割を果たしています。両筋の協調的な作用により、内耳への音エネルギーの伝達が適切に制御されています(Gulya et al., 2021)。
4. 参考文献
書籍
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier. — 医学生向けの解剖学の基本テキストで、アブミ骨筋を含む耳の解剖学について明確な説明と図解を提供しています。