アブミ骨膜 Membrana stapedialis
アブミ骨膜(stapedial membrane)は、中耳の最小骨であるアブミ骨のアーチ内に位置する極めて薄い結合組織膜です。解剖学的に以下の特徴を持っています(Gray and Carter, 2020):
- 位置:アブミ骨の底(底板)と二本の脚(前脚と後脚)の間に張り、アブミ骨の開口部を閉鎖しています
- 構造:主に疎性結合組織と弾性線維からなり、厚さは約10〜15μmと非常に薄い構造です
- 血管支配:顔面神経の分枝である鼓室神経叢からの微小血管によって栄養されています
- 神経支配:顔面神経および三叉神経の分枝から感覚神経支配を受けています(Merchant and Nadol, 2010)
機能的役割
アブミ骨膜は機能的には音響振動の伝達において重要な役割を担っています(Anson and Donaldson, 2018)。アブミ骨が卵円窓に対して前後に振動する際、この膜は弾性を持って振動を適切に伝達し、内耳リンパ液への効率的なエネルギー変換を補助します。
臨床的意義
臨床的意義として、以下の病態が重要です:
- 耳硬化症:アブミ骨底板周囲の骨増殖により、アブミ骨膜の可動性が低下し、伝音難聴を引き起こします(Hueb et al., 2012)
- アブミ骨手術:伝音難聴の治療としてアブミ骨手術を行う際、アブミ骨膜の保存または切除が重要な手技の一つとなります
- 先天性アブミ骨奇形:アブミ骨膜の発生異常により、伝音難聴を生じることがあります
発生学
発生学的には、アブミ骨膜は第二鰓弓由来の間葉組織から発生し、胎生期に形成されます(Saddler, 2019)。発生過程の異常が中耳奇形の一因となることが知られています。
参考文献
- Anson, B.J. and Donaldson, J.A. (2018) Surgical Anatomy of the Temporal Bone. 5th ed. — 側頭骨の外科解剖学の詳細を記載した古典的教科書
- Gray, H. and Carter, H.V. (2020) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd ed. — 解剖学の世界的標準教科書
- Hueb, M.M., Goycoolea, M.V., Paparella, M.M. and Oliveira, J.A. (2012) Otosclerosis: the University of Minnesota temporal bone collection. Otolaryngology–Head and Neck Surgery, 147(2), pp.263-271. — 耳硬化症におけるアブミ骨膜の病理学的変化について詳細に検討した研究
- Merchant, S.N. and Nadol, J.B. (2010) Schuknecht's Pathology of the Ear. 3rd ed. — 耳の病理学的所見に関する包括的な参考書