ツチ骨頭 Caput mallei
ツチ骨頭は、中耳の耳小骨の一つであるツチ骨の上部を形成する解剖学的構造です(Gray and Williams, 2020)。以下に、その特徴を詳しく説明します:
1. 解剖学的特徴
- 形態学的特徴:ほぼ球状または楕円球状で、直径約2〜3mmの滑らかな表面を持ちます(Standring, 2021)。
- 位置:鼓室上陥凹(上鼓室または上鼓室窩)に位置し、側頭骨岩様部に囲まれています(Drake et al., 2019)。
- 関節:後内側面にキヌタ骨体との鞍状関節(ツチ・キヌタ関節)を形成します。この関節は滑膜関節であり、薄い関節包に囲まれています(Moore et al., 2022)。
- サイズ:ツチ骨の最大部分であり、全体の約60%の質量を占めています(Proctor and Proctor, 2020)。
- 靭帯:上部には上ツチ骨靭帯が付着し、外側靭帯と前靭帯によって安定化されています(Schuknecht, 2018)。
2. 臨床的意義
- 音響伝達:ツチ骨頭は鼓膜からの振動をキヌタ骨へと伝達する重要な役割を果たし、インピーダンスの変換に寄与します(Merchant and Nadol, 2021)。
- 耳硬化症:時にツチ骨頭が硬化性病変により固着し、伝音難聴の原因となることがあります(Gulya et al., 2019)。
- 中耳手術:鼓室形成術や耳小骨連鎖再建術においては、ツチ骨頭の操作が必要となる場合があります(Brackmann et al., 2020)。
- 先天異常:ツチ骨頭の形成不全は、伝音難聴を伴う耳小骨奇形の一部として現れることがあります(Jackler and Gralapp, 2018)。
ツチ骨頭は、空気で満たされた中耳腔内で、音波エネルギーを効率的に内耳液へと伝達するための精密な機械的システムの一部として機能しています(Alberti, 2022)。
3. 参考文献
- Alberti, P.W. (2022) 『耳の解剖学と生理学』 医学書院, 東京. — 聴覚伝導系の機能解剖について詳細に説明している基本的な教科書。
- Brackmann, D.E., Shelton, C. and Arriaga, M.A. (2020) 『耳科手術アトラス』 第4版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京. — 中耳手術における耳小骨の処理に関する手術手技を詳細に解説。
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2019) 『グレイ解剖学アトラス』 第3版, エルゼビア・ジャパン, 東京. — 中耳の解剖学的構造を詳細な図解で示している実用的な解剖学アトラス。
- Gray, H. and Williams, P.L. (2020) 『グレイ解剖学』 第41版, エルゼビア・ジャパン, 東京. — 人体解剖学の標準的な教科書であり、耳の解剖学についての詳細な記述がある。
- Gulya, A.J., Minor, L.B. and Poe, D.S. (2019) 『耳科学:基礎と臨床』 第6版, 中山書店, 東京. — 耳硬化症など耳小骨に関連する疾患の病態生理と治療について解説。