涙小管 Canaliculus lacrimalis
涙小管は、涙器系の重要な解剖学的構成要素であり、涙の排出経路の一部を形成しています。その詳細な解剖学的特徴と臨床的意義について以下に説明します(Gray and Standring, 2016)。
解剖学的特徴
- 上下の各眼瞼辺縁内側1/5の部分にある涙点(punctum lacrimale)から始まります(Moore et al., 2018)
- 涙点に続く最初の2-3mmは垂直部(pars verticalis)と呼ばれ、その後内側に約90°屈曲して水平部(pars horizontalis)に移行します(Snell and Lemp, 2013)
- 水平部は眼瞼縁と平行に内側へ走行し、上下の涙小管はそれぞれ約8-10mm程度の長さがあります
- 上涙小管と下涙小管は通常、共通涙小管(canaliculus lacrimalis communis)を形成して涙嚢(saccus lacrimalis)の外側壁に開口します(約60%のケース)、または別々に開口することもあります(約40%)(Kanski and Bowling, 2011)
- 涙小管の内腔は直径約0.5-1.0mmで、多列円柱上皮で覆われています(Remington, 2012)
臨床的意義
涙小管は臨床的に重要な構造で、様々な病態に関連します(Yanoff and Duker, 2018):
- 涙小管閉塞(canalicular obstruction):外傷、炎症、先天異常などにより生じ、流涙(epiphora)を引き起こします
- 涙小管炎(canaliculitis):主にActinomyces israeliiなどの細菌感染により発症し、眼瞼縁の発赤、腫脹、涙点からの分泌物を特徴とします(Lee et al., 2014)
- 乾燥症候群(dry eye syndrome):涙液の産生低下や過蒸発により涙小管機能に影響を与えることがあります
- 涙小管裂傷:眼瞼外傷で生じることがあり、適切な修復が必要です
診断的手技としては、涙道洗浄(lacrimal irrigation)や涙道造影(dacryocystography)が行われます。治療法には、涙点プラグ、涙管チューブ挿入術、および涙小管形成術などがあります(Ali et al., 2015)。
涙小管が屈曲する部分には、わずかに膨大した「涙小管膨大部」(ampulla canaliculi lacrimalis)があり、涙液貯留の役割があると考えられています。また、涙小管には輪状に配列された筋線維(Horner筋)があり、瞬目時に涙小管を圧迫して涙液を涙嚢へ送る役割を担っています(Dutton, 2011)。
参考文献
- Gray, H. and Standring, S. (2016) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 41st edn. Elsevier. — 臨床解剖学の金字塔的な参考書で、眼の解剖学に関する詳細な情報を提供している
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy. 8th edn. Wolters Kluwer. — 臨床応用を重視した解剖学書で、涙器系の構造と機能について詳しく解説している
- Snell, R.S. and Lemp, M.A. (2013) Clinical Anatomy of the Eye. 2nd edn. Wiley-Blackwell. — 眼の解剖学に特化した専門書で、涙小管の詳細な解剖学的特徴を記載している