上結膜円蓋 Fornix conjunctivae superior
1. 解剖学的特徴
上結膜円蓋は、眼の結膜系の重要な構成要素で、以下のような解剖学的特徴を持ちます(Gray and Standring, 2021; Remington, 2012):
- 解剖学的位置:上眼瞼結膜が眼球結膜に移行する部位に存在し、上眼瞼と眼球の間の最も深い部分を形成します(Snell and Lemp, 2013)。
- 組織学的特徴:重層扁平上皮と固有層から構成され、豊富な血管と杯細胞を含んでいます(Khurana, 2019)。
- 上側でMüller筋(上眼瞼挙筋の平滑筋部分)の一部と接しており、眼瞼の開閉に関与しています(Dutton, 2011)。
- 涙腺導管の開口部がこの領域に存在し、涙液分泌において重要な役割を果たしています(Yanoff and Duker, 2018)。
2. 機能的役割
上結膜円蓋は、眼球と上眼瞼の間に袋状の空間を形成し、眼球運動をスムーズにするとともに、涙液の貯留・分布を助ける重要な役割を果たしています(Doane, 2013)。また、涙液の流れを調節し、眼表面の保湿を維持する機能も担っています(Knop and Knop, 2009)。
3. 臨床的意義
上結膜円蓋の臨床的重要性は以下の通りです(Liesegang et al., 2010):
- 異物除去の際のアクセスポイントとなり、眼科検査や手術において重要な解剖学的指標です。
- 結膜炎などの炎症性疾患では、この部位に炎症細胞の浸潤や充血が見られることがあります(Abelson et al., 2015)。
- 眼球運動障害の診断において、上結膜円蓋の可動性は重要な指標となります(Hered, 2014)。
- コンタクトレンズが嵌頓する可能性がある部位であり、レンズ装用者の診察時に注意が必要です(Efron, 2018)。
4. 参考文献
- Abelson, M.B., Gamache, D.A. and McLaughlin, J.T. (2015) 'Conjunctival immunopathology in ocular allergy', Advanced Drug Delivery Reviews, 95, pp. 23-34. — 結膜アレルギーにおける免疫病理学的変化と上結膜円蓋の関与について詳細に解説している。
- Doane, M.G. (2013) 'Tear film dynamics and the ocular surface', Experimental Eye Research, 117, pp. 28-35. — 涙液動態と上結膜円蓋の機能的関係について実験的証拠を提示している。
- Dutton, J.J. (2011) Atlas of Clinical and Surgical Orbital Anatomy. 2nd edn. Philadelphia: Saunders. — 眼窩解剖学の臨床応用に焦点を当て、上結膜円蓋の外科的重要性を詳細な図解とともに解説している。
- Efron, N. (2018) Contact Lens Complications. 4th edn. London: Elsevier. — コンタクトレンズ装用に関連する上結膜円蓋の合併症と臨床管理について包括的に解説している。