眼球鞘 Vagina bulbi; Capsula bulbi
眼球鞘(別名:テノン嚢)は、解剖学的に重要な眼球周囲の結合組織構造です。眼球運動の円滑化や眼球の保護など、重要な機能を担っています(Remington, 2012)。以下にその詳細な特徴と臨床的意義について解説します。
1. 解剖学的特徴
- 強靭な線維性結合組織からなる膜で、眼球の赤道部より後方を包み込むように存在します。この構造は眼球を保護し、周囲組織との摩擦を軽減します(Dutton, 2011)。
- 厚さは約1mmで、内側は滑らかな表面を持ち、外側は疎性結合組織と連続しています。この滑らかな内側表面は、眼球との摩擦を最小限に抑える役割を果たします(Snell and Lemp, 2013)。
- 後方では視神経外鞘と癒合し、視神経管まで連続します。この連続性は視神経の保護と安定化に寄与しています(Kanski and Bowling, 2011)。
- 前方は眼球赤道部を越えて各外眼筋停止部に達し、そこで筋膜と融合します。この融合部位は眼球運動の調節において重要な役割を果たします(Demer, 2006)。
- 眼球鞘と強膜の間には強膜上腔(Tenon腔)があり、この隙間には少量の液体が存在し、眼球の回旋運動を円滑にします。この液体は一種の関節液として機能し、摩擦を減少させます(Rootman, 2003)。
- 特に眼球下部では肥厚して眼球懸架靱帯(Lockwood靱帯)を形成し、眼球を支持する役割を担っています。この構造は眼球の垂直位置を維持する上で不可欠です(Koornneef, 1992)。
2. 臨床的意義
- 眼科手術のアプローチ経路:多くの眼科手術ではテノン嚢を通過して眼球にアクセスします。適切な切開と処理は、術後合併症の予防に重要です(Gess, 2012)。
- 局所麻酔注射:テノン腔内(球後)麻酔は眼球周囲の神経ブロックに有効です。この空間への注射は、網膜手術や白内障手術などの際に用いられます(Kumar and Dodds, 2006)。
- 眼球突出(眼球突出症):テノン嚢の炎症や線維化は眼球運動制限や突出に関与します。甲状腺眼症などの疾患では、このスペースの炎症と線維化が特徴的に見られます(Bahn, 2010)。
- 緑内障手術:濾過手術の際にはテノン嚢の処理が手術成功率に影響します。抗線維化剤の使用などにより、テノン嚢の瘢痕形成を抑制することが手術成功の鍵となります(Khaw et al., 2012)。
- 眼窩疾患:眼窩内の炎症性疾患や腫瘍はテノン嚢に影響を及ぼし、眼球運動障害や視機能低下を引き起こすことがあります(Rose, 2007)。
3. 発生学的観点
- 眼球鞘は胎生期に中胚葉性組織から発生し、眼球の後部を取り囲む結合組織として形成されます(Mann, 1950)。
- 発生過程では外眼筋の発達と密接に関連しており、眼球運動の調整システムとして共同で発達します(O'Rahilly, 1983)。
4. 画像診断
- MRIでは眼球鞘は低信号の薄い線として描出され、眼窩内疾患の評価に有用です(Ettl et al., 2000)。