眼窩中隔 Septum orbitale
眼窩中隔は、眼窩の前方を保護する重要な膜状構造です。詳細な解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです (Codère et al., 2010):
解剖学的特徴
- 発生学的には眼窩骨膜の延長であり、眼窩縁から上下の瞼板に向かって広がる強靭な結合組織膜です (Dutton, 2011)
- 眼窩縁の骨膜から起始し、上眼瞼では挙筋腱膜の前面を通過して上瞼板に、下眼瞼では下瞼板に付着します (Hwang et al., 2013)
- 厚さは部位によって異なり、特に内側および外側の眼角部で厚くなっています (Meyer et al., 2012)
- 内眼角部では内眼瞼靱帯(medial palpebral ligament)を形成し、涙嚢窩の前涙稜に付着します (Kakizaki et al., 2009)
- 外眼角部では外眼瞼靱帯(lateral palpebral ligament)を形成し、眼窩外側縁のWhitnall結節に付着します (Goldberg et al., 2016)
- 組織学的には密な不規則結合組織で構成され、弾性線維を含んでいます (Korn et al., 2017)
機能と役割
- 眼窩内脂肪組織の前方移動を防止し、眼窩内容物を保持する物理的バリアとして機能します (Massry et al., 2011)
- 眼瞼の支持構造として働き、特に上眼瞼挙筋の作用を適切に伝達します (Ghavami et al., 2015)
- 眼窩中隔を貫通する構造物には以下があります (Sires et al., 2018):
- 動脈:眼窩上動脈、滑車上動脈、眼窩下動脈など
- 静脈:眼静脈と顔面静脈の吻合枝
- 神経:眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、涙嚢神経など
- リンパ管:眼瞼と結膜からのリンパ流路
臨床的意義
- 眼窩隔膜裂傷は眼窩脂肪の脱出(herniation)を引き起こし、眼瞼の膨隆として現れることがあります (Tyers and Collin, 2008)
- 加齢により眼窩中隔が弛緩すると、眼窩脂肪が前方に突出し、眼瞼袋(眼瞼脂肪ヘルニア)を形成します (Rohrich et al., 2014)
- 眼科手術において重要な解剖学的ランドマークとなり、経中隔アプローチと前中隔アプローチの境界となります (Holds et al., 2020)
- 眼窩蜂窩織炎では、中隔が感染の前方拡大を防ぐバリアとして働きます(前中隔性と後中隔性に分類される理由)(Tsirouki et al., 2018)
- 美容形成外科では、眼瞼形成術の際に重要な外科的指標となります (Naik et al., 2016)
眼窩中隔は眼窩の構造を維持し、眼球とその周辺組織を保護する解剖学的に重要な構造であり、様々な眼科疾患や美容外科手術において臨床的意義を持ちます (Dutton, 2021)。