後境界板 Lamina limitans posterior
後境界板(デスメー膜)は角膜の重要な構成要素で、以下の解剖学的特徴があります(Dua et al., 2013):
解剖学的特徴
- デスメー膜(Descemet's membrane)とも呼ばれ、角膜の5層構造の第4層を形成します(Mohammadpour et al., 2013)
- 厚さは成人で約10-15μmあり、加齢とともに厚くなる傾向があります(Johnson et al., 1982)
- コラーゲン(主にIV型とVIII型)、ラミニン、フィブロネクチンなどの基底膜成分で構成されています(Kabosova et al., 2007)
- 構造的には2層に分けられます:
- 前層(胎生期に形成される約3μmの規則的な格子状構造)
- 後層(出生後に形成される不規則な構造)
- 電子顕微鏡で観察すると、角膜実質に隣接する細線維層と角膜内皮細胞の基底膜に区別できます(Bourne, 2003)
機能的意義
- 角膜内皮細胞の足場として機能し、内皮細胞の接着と維持に必須です(Waring et al., 1982)
- 角膜への水分流入に対するバリアとして機能し、角膜の透明性維持に寄与します(Joyce, 2003)
- 高い弾性と耐性を持ち、角膜の形状保持に貢献しています(McKee et al., 2011)
臨床的意義
- 先天性緑内障では、眼圧上昇によりデスメー膜に亀裂(ハーブ線)が生じることがあります(Anderson, 1981)
- 角膜内皮ジストロフィー(特にフックス角膜内皮ジストロフィー)では、デスメー膜の肥厚や疣贅(グッタータ)が特徴的です(Gottsch et al., 2005)
- 水疱性角膜症では、内皮機能不全によりデスメー膜を通過した水分が角膜実質を浮腫させます(Wilson and Bourne, 1988)
- 深層角膜移植(DSAEK/DMEK)では、ドナー角膜のデスメー膜と内皮細胞が移植されます(Melles et al., 2006)
歴史的には、1758年にパリの外科医・解剖学者であるJean Descemet (1732-1810)が最初に記載しました。しかし、イギリスでは外科医Benedict Duddelが第一発見者とされています(Laing et al., 2010)。
後境界板は角膜実質と角膜内皮の間に位置し、その構造的・機能的特性により角膜の透明性や形態維持において極めて重要な役割を果たしています。近年の眼科手術技術の発展により、デスメー膜の臨床的重要性はさらに注目されています(Price et al., 2009)。
参考文献