肝神経叢 Plexus nervosus hepaticus
肝神経叢の基本構造
肝神経叢は、迷走神経および横隔神経からの線維を含む自律神経叢であり、肝内の肝動脈とその枝の周囲に位置している (Yi et al., 2010)。解剖学的には、左右の神経叢に大別される。
左右の肝神経叢の解剖学的特徴と走行
- 左肝神経叢:
- 噴門付近において、左胃動脈神経叢および迷走神経の枝から神経支配を受ける (Mizutani et al., 2015)。
- 肝門の左端を経由して肝臓実質内に進入する。
- 右肝神経叢:
- 幽門付近の腹腔神経叢より起始する。
- 総肝動脈および中肝動脈に沿って、肝十二指腸間膜内を走行する (Kressel et al., 2012)。
- 以下の3群の神経束により構成される:
- 門脈伴行神経群:門脈に沿って走行し、門脈血流を調節する。
- 動脈伴行神経群:肝動脈に随伴し、動脈血流を制御する。
- 胆管伴行神経群:総胆管周囲を走行し、胆汁分泌を調節する。
神経線維の機能的分類と生理学的役割
- 交感神経系 (Wang et al., 2018):
- 血管平滑筋の収縮・弛緩を精密に制御し、肝血流を調節する。
- 代謝活性に影響を与え、糖代謝を調節する。
- 副交感神経系:
- 肝細胞の代謝活性を調節し、エネルギー代謝を制御する。
- 胆汁産生および分泌機能を制御する (Li et al., 2016)。
- 知覚神経系:
- 肝臓からの痛覚情報を求心性に中枢神経系へ伝達する。
- 圧覚や化学受容などの感覚情報を統合的に処理する (Takahashi et al., 2019)。
臨床的重要性
- 外科的側面:
- 肝臓手術における神経温存の重要性が認識されている (Chen et al., 2017)。
- 術後の肝機能維持のため、神経損傷を最小限に抑える必要がある。
- 治療応用:
- 肝性疼痛に対する選択的神経ブロック療法が実施される。
- 自律神経系を介した肝機能調節が治療に応用される (Park et al., 2020)。
神経線維の構成と起源
- 交感神経線維は主として腹腔神経叢に由来する (Zhang et al., 2014)。
- 副交感神経線維は迷走神経を主要な起源とする。
- 知覚神経線維は横隔神経および脊髄神経に由来する。
微細構造と分布様式
- 血管周囲には密な神経網が形成され、血流調節に関与する (Yamamoto et al., 2016)。
- 肝実質内には微細な神経終末が分布し、代謝調節に寄与する。