鎖骨下ワナ Ansa subclavia

定義

鎖骨下ワナは、鎖骨下動脈を取り囲むように形成される交感神経の輪状構造である(Standring, 2016)。上頚神経節からの交感神経と、中頚神経節または星状神経節からの交感神経によって形成される。

解剖学的位置と走行

位置は、鎖骨下動脈の第1部(起始部)を取り囲み、前斜角筋の前方、胸鎖乳突筋の深部に存在する(Gray et al., 2020)。周囲には、頚神経叢、腕神経叢、迷走神経などの重要な神経構造物が存在する。神経の走行としては、下頚神経節と星状神経節から発する神経枝が、鎖骨下動脈の前後を走行して輪を形成し、鎖骨下動脈周囲の末梢組織や血管壁に分布している。

発生学的特徴と形態学的変異

発生過程において、第6胸椎レベルから頚部への血管の上昇に伴い、交感神経の走行も変化し、この特徴的な輪状構造が形成される(Drake et al., 2020)。個体差が存在し、非対称的な形成や追加的な神経枝の存在が報告されている(Tubbs et al., 2015)。

生理学的機能

鎖骨下ワナは、以下の重要な機能を担っている(金子, 2000):

  1. 鎖骨下動脈とその分枝における血管運動の調節(主要機能)
  2. 周囲の交感神経信号の中継点としての機能と信号の統合
  3. 頚部における自律神経調節システムの一部としての機能

臨床的重要性

頚部手術時において、損傷を回避すべき重要な神経構造物の一つである(藤田, 2003)。特に以下の医療処置において、詳細な解剖学的理解が不可欠である(Bergman et al., 2018):

  1. 頚部手術における確実な神経温存と保護
  2. 交感神経ブロック治療の安全かつ効果的な計画立案と実施
  3. 血管手術における適切な神経保護と機能温存

画像診断における特徴

術前の画像診断(MRI、CT)では、鎖骨下ワナの直接的な描出は困難である(Standring, 2016)。しかし、周囲の解剖学的指標(特に鎖骨下動脈の走行)を参考に、その位置を慎重に推定することが重要である(Prasad et al., 2012)。

臨床症状と病態