上頚神経節

上頚神経節は、下顎角の高さに位置する、最も大きい神経節であり、第二・第三頚椎の横突起の前に存在しています。この神経節は、長さ約2cmの扁平で紡錘状の形状をしています。節前線維は第八頚髄、第一・第二胸髄から発し、節後線維は内頚動脈神経、外頚動脈神経、上頚心臓神経、そして交通枝として出ています。

日本人のからだ(木田雅彦 2000)によると

(1)頚部交感神経節

頚部交感神経幹神経節は、古くは心臓神経との関連で、上頚、中頚、下頚の3神経節に分けられていました。しかしMannu (1914)は、上・下頚神経節の間に存在する神経節を中間頚神経節としました。さらにJonnesco (1923)は、それらの神経節のうち上位を中頚神経節、下位を中間頚神経節としました。一方、Laubmann (1931)は後者を椎骨動脈神経節と呼びました。このような経過を経て、P.N.A. (Paris Nomina Anatomica, 1955年)に基づく解剖学用語(日本解剖学会、1958)では、上頚、中頚、頚胸の3神経節が出し語として挙げられました。そして中頚神経節の項目に椎骨動脈神経節の用語が含まれ、下頚神経節の用語が廃止されました(ただし今日でも教科書などで一般的に使用されています)。しかし、これらの用語の実際の使用に際しては、適用に苦労することがしばしばあります。

椎骨動脈神経節は、椎骨動脈の前方でこれに接して位置するとされています(Mitchell, 1953)。しかし、椎骨動脈がC6より頭側で横突孔に進入する例が観察されます(8/70側)。この場合、椎骨動脈神経節を動脈との位置関係では特定できません。したがって、頚部の幹神経節においても、胸部と同様に灰白交通枝によって所属分節を決定し(吉田、1980)、これに基づいて用語を適用すべきと考えます。

上頚神経節は、C1-4の脊髄神経と交通します(原ら、1993)。自験例では、C1-2との交通は常在であり、C3との交通は57.5% (40例中)に観察されました。また中頚神経節の最上位交通枝はC4が64.9%でした(表96)。したがって、上頚神経節は基本的には最上位3(まれに2、ときどき4)脊髄分節相当の神経堤領域に由来する細胞で形成されると考えられます。また、個数は例外なく1個であり、数珠状の神経節が形成され中頚神経節との境界がはっきりしない1例を認めました。

中頚・椎骨動脈神経節の分節は、一括すると主にC4-6でした。その個数については、中頚神経節が0-4個、椎骨動脈神経節が0-2個でした(表97)。分離神経節2個で1分節と考えると、原則として中頚神経節はC4-5分節に、椎骨動脈神経節はC6分節に相当すると思われます。

頚胸神経節は下頚神経節と第1胸神経節の結合により形成されます。本調査では、下頚神経節が第1胸神経節と分離独立しているとみなせた例は113側中49側(43.4%)であり、113側中64側(56.6%)では頚胸神経節を形成していました。独立した下頚神経節ではC7とC8が交通枝の常在分節であり、31側中20側(64.5%)にTh1との交通枝も併存していました(図106)。よって、厳密に独立した下頚神経節は全体の約2割でした。

頚部交感神経幹神経節の形態の多様性は、各脊髄分節の高さの神経堤に由来する神経節細胞の集合と離散の個体差により、説明可能でしょう(図107)。上頚神経節は、細胞移動が頭蓋底で制限されるため安定した形態を示すと思われます。また、C6とC7との間での脊柱の形態変化(前弯と後弯の境界)が分水嶺となり、椎骨動脈神経節と頚胸神経節が形成されやすいことも考えられます。したがって現行の解剖学用語(日本解剖学会, 1987)は一応適当でしょう。ただし下頚神経節の用語も存続させ、かつ交通枝の脊髄分節を基準にするなら、神経節の多様な形態をより実態に即して記述できます。しかし、幹神経節が肉眼的に存在しない場合でも細胞体は検出できますので(Hoffmann, 1957)、幹神経節の形態を肉眼的に詳細かつ厳密に扱うのは、逆に客観性に欠ける恐れがあることに注意したいと思います。

表96 中頚神経節交通枝の最上位分節

表96 中頚神経節交通枝の最上位分節

分節 側数 比率(%)
C3 27 28.7
C4 61 64.9
C5 6 6.4
94 100

この場合、中頚神経節には椎骨動脈神経節も含まれています。

表97 中頚神経節と椎骨動脈神経節の数

表97 中頚神経節と椎骨動脈神経節の数

中頚神経節 椎骨動脈神経節
側数 比率(%) 側数 比率(%)
0 12 10.8 8 7.1
1 58 52.3 85 75.9
2 30 27.0 19 17.0
3 8 7.2
4 3 2.7
111 100.0 112 100.0