腓腹神経 Nervus suralis
1. 解剖学的基本構造
- 腓腹神経は、脛骨神経の皮枝として起始し、腓腹筋の内側頭と外側頭の間を下行する (Standring et al., 2020)。
- 一般的に、総腓骨神経からの交通枝を受け、この合流パターンは日本人では87.7%と高頻度である (Akita et al., 2018)。
- 下腿後面では、以下の2つの主要成分で構成される:
- 脛骨神経由来(T成分):下腿近位1/3で分岐し、腓腹筋内外側頭間を通過する。
- 総腓骨神経由来(F成分):腓骨頭付近で分岐し、下腿外側を下行する。
- 下腿遠位1/3において、外果後方を通過し、足背小指側へと走行する (Drake et al., 2019)。
2. 神経支配と分布パターン
- 神経根由来:T成分はS1-2、F成分はL5-S1(S2)に由来する (Moore et al., 2022)。
- 足背での分布領域:小指外側縁から始まり内側へと拡大し、最も多い分布パターンは第3指外側縁まで(62.4%)。
- 起始根から大腿部までは、T成分とF成分の間に吻合関係は認められない。
3. 臨床的重要性
- 神経障害の評価:下肢手術後や外傷後の神経機能評価に重要である (Campbell et al., 2021)。
- 診断的価値:末梢神経障害の診断において、腓腹神経生検が有用である。
- 障害パターン:外果後方での圧迫により、足背外側部の感覚障害が生じうる。
- 臨床評価:小指外側から第3指外側縁までの感覚検査が特に重要である。
4. 解剖学的変異と特徴
- 走行の個体差:腓腹神経の走行経路には顕著な個体差が存在する (Dellon et al., 2019)。
- 合流位置:T成分とF成分の合流位置は、下腿の様々な高さで生じる。
- 支配領域:足背での神経支配領域は個体によって異なるパターンを示す。
- 成分特性:
- T成分は比較的恒常性が高い。
- F成分は変動が大きい。