坐骨神経

坐骨神経は人体で最大の神経で、仙骨神経叢を構成する神経線維の大部分を占めています。大坐骨孔から梨状筋の下を通って出発し、大腿の後側を通過して全ての大腿屈筋群に筋枝を提供します。その後、膝窩の少し上で総腓骨神経と脛骨神経に分岐します。

総腓骨神経は大腿二頭筋長頭の内側縁に沿って降り、腓骨上端の外側で次の終末枝に分岐します。それらは、①外側皮腹皮神経(下腿外側面の皮膚に分布)、②深腓骨神経(下腿の伸筋群と足背の筋肉、そして足背の皮膚に分布)、③浅腓骨神経(長腓骨筋、短腓骨筋への筋枝を出した後、内側足背皮神経、中間足背皮神経、足背趾神経となって足背の皮膚に分布)となります。

一方、脛骨神経は下腿の屈筋群、足底の筋肉、下腿の後面と足底の皮膚に分布します。以下の神経は全て脛骨神経の末梢枝です。①下腿骨間神経(下腿骨間膜の後縁に沿って走り、足関節のあたりに達する)、②内側皮腹皮神経、腓腹神経、外側足背神経(下腿後面から足背外側部の皮膚に分布するもので一つに連結)、③内側足底神経と外側足底神経(足底の筋肉に分布する枝を出した後、足底の趾の下面や足底の皮膚に分布するため、総底側趾神経に枝分かれして固有底側趾神経になります)。

日本人のからだ(秋田恵一 2000)によると

仙骨神経叢の最大の神経である坐骨神経は、腹側の脛骨神経と背側の総腓骨神経から構成されています。1本の坐骨神経を形成しているように見えますが、丁寧に解剖を進めると、これら二つの神経に分けることができます。

小牧(1960 b)によると、坐骨神経は、梨状筋下孔を総腓骨神経と脛骨神経が合成したまま通過する型(37.1%)と、総腓骨神経が梨状筋を突き抜ける高位分岐型(62.9%)に分類されます。

坐骨神経を形成する型では、5根(86.1%)、4根(11.1%)の順に発生し、L5-S2が100%参加し、次いでL4, S3から参加します。一方、高位分岐型の総腓骨神経は、4根から発生するものが最も多く(59.0%)、次いで5根から発生するもの(23.0%)が多いです。この場合、L5-S1は全例参加し、次いでL4, S2から参加します。

総腓骨神経の起始は、L4-S2が最も多く(57.4%)、次いでL4-S3が多い(23.0%)です。高位分岐型の脛骨神経は、起始が5根であるものが最も多く(83.6%)、L5-S2が全例で参加し、次いでL4, S3から参加します。

脛骨神経は、L4-S3から発生するものが最も多く(83.6%)、L5-S3(9.8%)、 L4-S2(6.6%)の順で認められます。田縁(1957)は、高位分岐型の坐骨神経が32.0%に見られると報告しています。一般に、総腓骨神経は脛骨神経より尾側の1根が少ないことが多いです。

坐骨神経の枝の分岐位置、分岐点、分岐パターンについては、本間(1959)の詳細な統計報告があります。また、坐骨神経と梨状筋との関係については多くの報告がありますが、梨状筋を貫通する神経は坐骨神経だけでなく、仙骨神経叢背側層の神経全体にその可能性があります。

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

坐骨神経は仙骨神経叢の主要な部分で、腹側(屈側)に分布する脛骨神経と背側(伸側)に分布する総腓骨神経から構成されます。これらの神経は膝窩上部まで隣接して共通の経路を取りますが、骨盤内まで分離可能です。仙骨神経叢の背側面からは、上殿神経、下殿神経、後大腿皮神経が起始しています(Akita et al., 1992 a)。千葉(1992)によると、全調査例の60.1% (正常型)では、梨状筋上縁と大坐骨切痕からできる間隙、すなわち梨状筋上孔を上殿神経と上殿動・静脈が通り、梨上筋下縁と坐骨棘に付着する仙棘靭帯で囲まれた間隙、すなわち梨状筋下孔を坐骨神経、下殿神経と同名血管、後大腿皮神経が通る。残りの約40%では、総腓骨神経などの一部(もしくは全成分)が梨状筋を貫通(37.9%)あるいは梨状筋上孔を通過している(1.9%)(図100)。

仙骨神経叢背側枝、特に総腓骨神経と梨状筋の位置関係は、これまでにもいくつかの分類型に分けられています(河野、1930; 山岸、1934; 大内、1952; 藤田恒太郎、1957; 浦1962; 山田・萬年、1985; 河西、1993)。これらの関係は、貫通する神経の数と成分などに基づいて、I型(正常型)からXIII型までの13型33亜型に分類されます(千葉、1992)。貫通例では、下殿神経と総腓骨神経が梨状筋を貫く場合(V型)、あるいはそれらに後大腿皮神経の一部を伴う場合(VII型)が一般的です(松島伯一、1929; 椎名、1931; 熊木、1980; 千葉、1987)。XI型からXIII型では、梨状筋上孔を下殿神経、総腓骨神経などが通過しています(Adachi、1900, 1909/1910; 小金井ら、1903; 山岸、1934; 五十嵐、1935; 福元、 1935; 櫛田、1941; 橋本・外山、1942; 杉山、1943 a; 小畑、1949; 大内、1951, 1958 ;本間、1959; Kubota et al., 1960)。脛骨神経の一部が梨状筋を貫通する場合(X型、0.8%、千葉、1992)には、脛骨神経に挟まれた筋束の起源が問題となり、佐藤健次・佐藤達夫(1987)はそこに分布する支配神経が仙骨神経叢の腹側層に由来することから、この筋束を上双子筋の一部と考えています。

貫通例では、神経が梨状筋の背側中央を貫く外側型が一般的で(80.5%、千葉、1992)、仙骨に近接して梨状筋を貫く内側型、あるいは両者の共存型がそれぞれ11.2%、8.3%を占めています。上殿神経の一部(上殿神経の上枝、Akita et al., 1993, 1994 a)が、梨状筋を貫通して中殿筋の背側筋束に分布する現象(II型、16%、千葉、1992; 10.2%、Akita et al., 1994 b)は、他の分類型とともに観察されます。各型の出現に関して、男女差、左右差は認められません(小畑、1949; 本間、1959; 千葉、1992)。

比較解剖学的には、神経の梨状筋貫通が原型とされ(Nishi、1919)、ヒトでは通常、総腓骨神経よりも腹側の筋束は退化・消失すると考えられています(西、1961)。坐骨神経の骨盤外への出口は、上後腸骨棘、尾骨、大転子の3点を結んだ二等辺三角形の重心に相当し(浦、1962)、その位置は、総腓骨神経の梨状筋貫通(上孔通過)例では、通常より数cm頭側に移動しています。

総腓骨神経の一部または全成分の梨状筋貫通は34.1%、その上、上孔通過は2.0%に認められます(図101)(千葉、1992)。梨状筋に対して総腓骨神経が、上孔通過と貫通、貫通と下孔通過、上孔と下孔通過の異なる2経路を所有する場合は、合わせて9.5%に観察されます。単独貫通は、上殿神経(II型)、下殿神経(III型)、まれに後大腿皮神経(XIII型)のそれぞれ一成分に限られ、神経の全成分が、単独で梨状筋を貫通する例は認められません。坐骨神経全体の梨状筋貫通は極めてまれで、日本では葉山(1954)が1例を報告するのみです。神経の全成分が梨状筋を貫通(上孔通過)する際には、常に他の神経の一部または全部を伴います(Kubota et al., 1960; 森・大内、1982)。この現象は、下殿神経、総腓骨神経、後大腿皮神経の一部が、神経叢の背側面から起始するさいに、異なる脊髄分節から線維を集めて互いに交錯して、共通経路を取るためと考えられます。

上殿神経、下殿神経、総腰骨神経、後大腿皮神経の背側根(大内、1958; Nakanishi et al., 1976)は、梨状筋上孔・貫通・下孔の、いずれの経路も取れます。背側の神経ほど梨状筋を貫き、それを越える傾向が強いと言われています(大内、1951)。梨状筋に対する神経貫通(あるいは上孔通過)の優先順位は、下殿神経、総腓骨神経、後大腿皮神経の背側根、脛骨神経の一部、後大腿皮神経の腹側根の順となり、この順位は、各神経の梨状筋下孔を通る比率にほぼ反比例しています。