腸骨下腹神経 Nervus iliohypogastricus
1. 基本的特徴
- 腸骨下腹神経は、末梢神経系に属し、腹部の感覚および運動を制御する重要な神経である。
- 第12胸神経と第1腰神経の前枝から形成され、後腹膜腔を走行する。
- 直径は約2-3mmであり、腰神経叢の中でも比較的太径の神経として知られている。
2. 解剖学的走行
- 第12肋間神経の下方を水平に走行し、前方下方に向かって前腹筋群に進入する。
- 大腰筋を斜走して貫通後、腹横筋と内腹斜筋の間から出て、上前腸骨棘の内側を通過する。
- 前腹壁筋群の間を走行し、最終的に皮下組織に到達して終末枝に分岐する。
- 腹横筋筋膜と内腹斜筋の間を走行する際、筋枝を分岐して周囲の筋組織に分布する。
3. 神経支配領域
- 運動支配:腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋を支配する。
- 感覚支配:下腹部および臀部外側の皮膚感覚を司る。
- 前枝:腹直筋外側を通過し、臍レベルで皮膚に到達する。
- 後枝:腸骨稜上方で皮膚に達し、臀部上外側の感覚を支配する。
4. 臨床的意義
- 鼠径ヘルニア手術をはじめとする腹部手術での神経損傷により、感覚異常や運動障害が発生する可能性がある。
- 手術操作時には神経走行を十分に考慮し、可能な限り温存に努める必要がある。
- 術後慢性疼痛症候群の原因となり得るため、適切な術前説明と術後管理が重要である。
- 神経ブロック療法は、本神経に起因する慢性疼痛の治療に有効な場合がある。