肋間神経 Nervi intercostales (Nervus thoracicorum)
1. 基本構造と走行
- 肋間神経は、胸神経の前枝であり、肋骨下縁に沿って肋間隙を肋間動静脈と共に前方へ走行する。
- 典型的な肋間神経は第3-6肋間隙に見られ、最内肋間筋と内肋間筋の間を走行して腹側に向かう。その主幹は肋骨溝を走行し、胸骨縁に達して前皮枝となる。
- 下位の肋間神経は、横隔膜の起始部を貫き、内腹斜筋と腹横筋の間に進入し、最終的に腹直筋を貫いて前皮枝となる。
- 第1胸神経前枝は主として腕神経叢の形成に関与し、第1肋間神経となる細枝を分岐する。
- 第12胸神経前枝は第12肋骨下縁に沿って走行することから、肋下神経と呼ばれる。
2. 主要な枝と分布
- 肋間神経は、主幹、側副枝、外側皮枝の3つの主要な枝により構成される。
- 側副枝は主幹根部から分岐し、特に第7-9肋間隙において高頻度で出現する。
- 筋枝は主幹から分枝し、以下の筋群を支配する:
- 胸壁筋群:外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋、肋下筋、胸横筋
- その他の筋群:上後鋸筋、下後鋸筋
- 皮枝は外側皮枝と前皮枝に分類され、それぞれ胸腹壁の側面および前面の皮膚に分布する。
3. 解剖学的指標と変異
- 肋骨溝:肋間神経主幹の走行経路を予測する重要な指標である。
- 中腋窩線:外側皮枝の分岐位置を示す重要な解剖学的指標となる。
- 肋骨角:肋間神経の走行レベルが変化する重要な位置的指標である。
- 個体差:
- 側副枝の出現頻度と分布パターンに顕著な変異が認められる。
- 外側皮枝の分岐位置や走行経路に個体差が存在する。
- 下位肋間神経(第7-12)の腹壁への進入経路に多様なパターンが報告されている。
4. 臨床的重要性
- 開胸手術において、第5-9肋間隙の切開操作では側副枝損傷のリスクが高いため、特別な注意が必要である。
- 肋骨弓下切開では、第7-9肋間神経主幹と外側皮枝、さらに腹直筋と腹横筋上半部への影響に留意する必要がある。