肋間神経

肋間神経は胸神経の前枝で、肋骨の下縁に沿って肋間隙を肋間動静脈と一緒に前走します。筋枝は胸壁の筋肉(外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋、肋下筋、胸横筋、上後鋸筋、下後鋸筋)に送られ、皮枝(外側皮枝、前皮枝)は胸壁の側面と前面の皮膚に送られます。さらに、肋間神経は壁側胸膜と腹膜にも分布します。

日本人のからだ(坂本裕和 2000)によると

肋間神経は他の脊髄神経と比べて分節性を保った基本的な神経であり、主幹、側副枝および外側皮枝から構成されます(Davies et al., 1932)。典型的な肋間神経は第3から第6肋間隙に見られ、椎間孔を出ると胸膜と内肋間膜との間で肋間隙の中央の高さに位置しますが、肋骨角付近では最内肋間筋と内肋間筋に挟まれて肋間の上縁に移動し、腹側に向かって肋骨溝を走行します。最内肋間筋は肋骨と肋軟骨との結合付近で消失するので、肋間神経主幹は胸横筋と内肋間筋との間を走り、胸骨縁に達して前皮枝となります(図85)。一方、下位の肋間神経は内・最内肋間筋間を走った後、肋骨弓を横切り、横隔膜の起始部を貫いて内腹斜筋と腹横筋間に進入し、正中部で腹直筋を貫き前皮枝となります。このように、胸壁と腹壁の両方に分布するためthoracoabdominal intercostal nerveとも呼ばれます。また、第1胸神経前枝は主として腕神経叢の形成に参加し、細枝が肋間隙に向かって第1肋間神経となりますが、外側皮枝および前皮枝の出現頻度は10%前後です。第2肋間神経外側皮枝は発達が良く、恒常的に上腕後面に分布するため肋間上腕神経といわれます。第12胸神経前枝は第12肋骨下縁に沿って走るので肋下神経と呼ばれ、さらに第1腰神経前枝は腸骨下腹神経と腸骨鼠径神経の2枝に分かれますが、腹壁筋に包まれて走行する経過、ならびに皮枝への枝分かれなどから肋間神経に準じた神経と考えられます。

肋間神経の構成成分および固有胸壁筋と腹壁筋を支配する各筋枝の起始形態と各筋群との層的関係を図86に示します(坂本,1989; Sakamoto et al., 1996 a,b)。

側副枝は主幹根部から分かれ肋間の下縁に沿って走行し、中腋窩線付近で主幹と再結合します。全肋間のうち1/3から2/3に見られますが、第7から第9肋間隙に出現する傾向が強いです。まれに主幹に再結合せずに肋間の下縁に沿って走行し、前胸壁に副前皮枝を分枝することもあります。

外側皮枝は主幹から起始し、側副枝から生じることはありません。中腋窩線より近位で起始し、外腹斜筋枝を分枝します。各筋枝は原則として独立して生じますが、共通幹の形成も確認できます。

外肋間筋枝:主幹の根部からまとまって生じ、内肋間膜(筋)を貫き、外肋間筋と内肋間筋の間を走行します(浅肋間神経,児玉,1986)。

内肋間筋枝と最内肋間筋枝:両筋が肋間神経主幹を内外から挟んでいる部位では大部分が共通幹を形成して起始しますが、時折、最内肋間筋および内肋間筋へ単独で進入する枝が見られます。

肋下筋枝:肋間神経根部で単独または外肋間筋枝と共通幹で生じます。肋下筋の頭側半と同じ肋間の神経が単分節性に支配します。

胸横筋枝:Th3-5から比較的独立性を保って生じ、内肋間筋枝または内・最内肋間筋共通幹の腹側を走行して胸横筋の前面から進入します。上位筋束は起始肋骨部の肋間神経に支配されますが、下位筋束ではその他に一分節上位の神経からも支配されます。

腰方形筋枝:Th12-L3の主幹根部から生じます。L1-2は腰方形筋全体の2/3を支配します。

外腹斜筋枝:Th5-12(L1)の外側皮枝から生じます。上位の支配枝は外腹斜筋の表面から進入するのに対して、下位支配枝は裏面から入ります。上位の筋尖は起始肋骨と同じ分節の神経に支配されますが、下位筋尖ほど一分節から二分節下位の神経に支配される傾向が強くなります。

内腹斜筋枝:Th10-L1から生じ、外腹斜筋枝および腹横筋枝に比べ狭い範囲に限定されています。内腹斜筋は内肋間筋と連続しており、さらに内肋間筋枝の最終枝が内腹斜筋にも分布しているので両筋の近縁性が推測されます。

腹横筋枝:Th6-L1から単独で生じることが多いです。腹横筋の各筋尖は起始肋骨部の肋間神経から支配されるほか一分節上位の神経からも支配され、肋間神経主幹より深層に位置する胸横筋の支配形態と類似します。

腹直筋枝:Th(6)7-12(L1)から生じ、各分節神経は腱画付近と腱画間中央部の2か所で進入します。腹直筋のみを支配する枝、筋を貫通するだけで前皮枝となる枝および両成分を含む3種が認められます。

錐体筋枝:L1から生じ、筋の表面から進入します。

上後鋸筋枝:Th1-3の外肋間筋枝の最終枝として生じます。各筋尖は上位の神経に支配される傾向があり、筋尖数に比べ支配枝数は少ないです。また、C8前枝からの枝が中斜角筋を貫いて進入することもあります。

下後鋸筋枝:Th9-11の外肋間筋枝の終枝として生じます。下後鋸筋の各筋尖は同分節の神経に支配され、筋尖数と支配枝数は一致します。

開胸・開腹手術に際して、肋間神経の全経過と各筋枝の分枝様式および筋内神経分布の特徴を知ることは、術後の知覚および運動障害を考える場合に重要です(図87, 88)。