胸神経 Nervi thoracici [T1-T12]
1. 基本的解剖学的特徴
- 胸神経は12対存在し、前枝(肋間神経)と後枝の2枝に分岐する。後枝は胸椎横突起を通過し、前枝は肋間神経として機能する。
- 第1胸神経(T1)は主として腕神経叢の形成に関与し、第12胸神経(T12)は肋骨下縁に沿って走行する。
2. 胸神経の機能的区分
- 上部胸神経(T1-T4):胸部上部の感覚・運動支配を担当し、一部は上肢の神経支配にも関与する。
- 中部胸神経(T5-T9):胸部中央部から腹部上部の支配を担当し、肋間筋群の運動制御に重要な役割を果たす。
- 下部胸神経(T10-T12):腹部の支配を担当し、腹壁筋の運動制御と腹部皮膚の感覚支配に関与する。
3. 臨床的重要性
- デルマトーム支配:各胸神経は特定の皮膚分節(デルマトーム)を帯状に支配し、神経学的診断の重要な指標となる。
- 神経障害の症状:胸神経障害は、支配領域の感覚異常(痛覚、触覚、温度覚の変化)や運動障害として出現する。
- 帯状疱疹との関連:胸神経の皮節(デルマトーム)分布は帯状疱疹の発症パターンと密接に関連し、診断の手がかりとなる。
4. 前枝と後枝の機能的特徴
- 後枝:背部の皮膚感覚と傍脊柱筋群の運動支配を主に担当し、脊柱の安定性維持に重要である。
- 前枝(肋間神経):胸壁の感覚・運動支配、胸腹部の皮膚分節支配、および呼吸運動の制御に関与する。
5. 神経枝の詳細構造
- 後根神経節枝:脊髄後根神経節に連絡し、体性感覚情報の中継と統合に重要な役割を果たす。
- 交通枝:交感神経幹との連絡を形成し、自律神経系による内臓機能の調節に関与する。
- 筋枝:肋間筋群や胸壁筋群への運動神経支配を行い、呼吸運動の制御に不可欠である。
- 皮枝:外側皮枝と前皮枝に分かれ、胸部と腹部の皮膚感覚を系統的に支配する。