深枝(橈骨神経の)Ramus profundus (Nervus radialis)
橈骨神経の深枝は、上肢の重要な運動神経であり、手指および手関節の伸展運動を支配する主要な神経です。
1. 解剖学的特徴
走行と分布
- 起始:橈骨神経共通幹は腋窩において浅枝と深枝に分岐します。
- 経路:深枝は上腕三頭筋を貫通し、前腕伸筋群の深層を走行します。
- 終末:後骨間神経となり、骨間膜に沿って前腕遠位1/3まで到達します。
2. 支配筋と機能
深枝は以下の筋群を支配し、手関節および手指の精密な伸展運動を制御します:
手関節運動の支配筋
- 短橈側手根伸筋(M. extensor carpi radialis brevis):手関節の背屈および橈屈を担います。
- 尺側手根伸筋(M. extensor carpi ulnaris):手関節の背屈および尺屈を制御します。
手指運動の支配筋
- 指伸筋(M. extensor digitorum):第2指から第5指までの伸展を統合的に制御します。
- 小指伸筋(M. extensor digiti minimi):小指の精密な独立伸展を可能にします。
- 示指伸筋(M. extensor indicis):示指の独立した伸展運動を制御します。
母指運動の支配筋
- 長母指外転筋(M. abductor pollicis longus):母指の外転運動を担当します。
- 短母指伸筋(M. extensor pollicis brevis):母指基節骨の伸展を制御します。
- 長母指伸筋(M. extensor pollicis longus):母指末節骨までの完全な伸展を可能にします。
前腕回旋の支配筋
- 回外筋(M. supinator):前腕の回外運動を制御します。
3. 臨床的意義
神経障害の症状
- 手関節および指の伸展障害(落下手)が特徴的な症状として出現します。
- 手関節の背屈機能、母指の外転・伸展能力、および指の伸展が著しく制限されます。
- 回外筋の麻痺により、前腕の回外運動にも障害が生じます。
損傷機序
- 外傷性損傷:上腕骨遠位部骨折による直接的な神経損傷が生じます。
- 圧迫性損傷:前腕部での持続的な圧迫により神経障害が発生します。
- 過用性損傷:反復的な回内・回外運動により、慢性的な障害が発生することがあります。
4. 治療方針
保存的アプローチ
- 原因となる圧迫要因の除去と適切な理学療法を実施します。
- 筋力維持訓練および関節可動域訓練を計画的に実施します。
- 必要に応じて、神経の減圧術や修復術などの手術療法を検討します。
早期診断と適切な治療介入により、機能回復の予後は一般的に良好です。
5. 解剖学的変異
以下のような個体差が臨床上重要となります:
- 分岐形態:上腕での分岐位置および筋枝の分岐パターンに個人差があります。
- 走行経路:特に回外筋貫通部での走行に著明な個人差が認められます。
- 支配領域:隣接する神経との重複支配が観察されることがあります。
これらの解剖学的変異の理解は、手術計画の立案および臨床症状の適切な解釈に不可欠です。
6. リハビリテーション計画
以下の要点に注意して、体系的なリハビリテーションを実施します:
- 運動療法:段階的な筋力増強訓練と適切な負荷設定を行います。
- 関節可動域訓練:拘縮予防のため、早期から適切な介入を開始します。
- 日常生活動作(ADL)訓練:実生活を想定した具体的な動作訓練を実施します。
- 代償動作への対応:不適切な代償パターンを防止し、適切な動作指導を行います。

J0475 (右前腕の筋(第4層):手掌側の図)

J0940 (右上腕の筋神経:前方からの筋)

J0942 (右前腕の神経、深い層:前面からの図)

J0948 (右前腕の筋肉の神経、後外側からの図)