手背枝(尺骨神経の)Ramus dorsalis nervus ulnaris

解剖学的特徴

尺骨神経の手背枝は、手関節部で尺骨神経から分枝し、尺骨頭と尺側手根伸筋腱の間を通過して手背に至ります (Standring et al., 2020)。手根管より近位で分岐し、尺側手根伸筋腱の深部を経由して、手背の皮下を走行します。

神経支配領域

主な支配領域は以下の通りです (Drake et al., 2019): ・第5指の背側全体 ・第4指背側の尺側半分 ・手背側の内側部分

この支配領域は正中神経の手背枝との間で境界を形成し、個人差が見られることがあります。変異として支配領域が通常より広くなったり狭くなったりする場合があります (Moore et al., 2022)。

機能と臨床的意義

本神経枝は感覚枝として機能し、支配領域の皮膚感覚を司ります (Netter, 2021)。神経損傷時には、以下の症状が現れる可能性があります: ・支配領域の感覚障害 ・痺れ ・知覚異常

これらの症状は、特に以下の状況で発生することがあります (Campbell, 2021): ・手首や前腕の外傷 ・神経の圧迫 ・手術後の合併症

診断と評価

診断には以下の方法が有用です (Miller and Thompson, 2020): ・手背の感覚検査(神経障害の評価に不可欠) ・神経伝導検査(神経機能の客観的評価) ・MRIやエコー検査(高解像度の画像と熟練した読影技術が必要)

手術的考慮事項

手術時には以下の点に注意が必要です (Green and Wolfe, 2021): ・手背部手術時の神経走行への配慮 ・可能な限りの神経温存 ・手関節部での操作時における分岐部位への注意 ・周囲の血管や腱との関係性の把握

解剖学的標本の意義

教育的価値の高い解剖標本の作製には、以下の点に注意が必要です (Tank and Grant, 2020): ・神経の分岐パターンの保存 ・支配領域の明確な展示 ・皮下組織の慎重な剖出 ・周囲構造との関係性の保持

参考文献