



内側前腕皮神経の後枝(尺側枝)は、腕神経叢の内側索(C8-T1)から分岐する純感覚性の皮神経である (Standring, 2021)。本神経は上腕内側を下行し、上腕中央部で尺骨神経から分離した後、肘関節の近位で前枝と後枝に分岐する (Moore et al., 2022)。後枝は皮下脂肪層内を走行し、前腕の尺側背面に向かって分布する特徴的な走行パターンを示す (Drake et al., 2023)。
後枝の主な支配領域は、前腕背側の尺側面であり、肘関節後面から手関節尺側背面に至る広範な皮膚領域を支配する (Netter, 2024)。この支配領域は、外側前腕皮神経および橈骨神経浅枝の支配領域と隣接しており、境界部では重複支配が認められる (Standring, 2021)。
日本人集団を対象とした研究では、約15%の症例で尺骨神経の背側皮枝との吻合が確認されており、これにより支配領域の個人差が生じることが報告されている (Kimura et al., 2022)。また、分岐パターンや走行経路にも個体差が存在し、手術時には注意が必要である (Moore et al., 2022)。
本神経は皮下浅層を走行するため、外傷や圧迫による機械的損傷を受けやすい解剖学的特性を有する (Drake et al., 2023)。特に、肘関節周囲での静脈穿刺、採血、静脈ラインの留置などの医療処置において損傷のリスクが高まる (Lee et al., 2024)。また、上肢の手術、特に肘関節の外科的アプローチにおいては、神経の走行を十分に理解し、適切な保護措置を講じる必要がある (Yoshida and Tanaka, 2023)。
神経損傷が生じた場合、支配領域である前腕尺側背面に感覚障害が出現する。具体的には、異常感覚、感覚鈍麻、感覚脱失などが主症状となる (Moore et al., 2022)。また、神経腫が形成された場合には、局所的な疼痛や神経刺激症状が持続することがある (Schmidt and Meyer, 2023)。
上肢の区域麻酔、特に腋窩神経ブロックや肘関節周囲の神経ブロックを施行する際には、本神経の損傷に注意が必要である (Lee et al., 2024)。超音波ガイド下での穿刺により、神経の直接的な可視化が可能となり、医原性損傷のリスクを低減できることが報告されている (Park and Kim, 2023)。
前腕の感覚障害を訴える患者に対しては、詳細な病歴聴取と系統的な身体診察が重要である (Moore et al., 2022)。触診により神経の走行に沿った圧痛や Tinel徴候の有無を確認し、支配領域における感覚機能(軽触覚、痛覚、温度覚)を詳細に評価する必要がある (Chung, 2023)。