外側胸筋神経

外側胸筋神経は、第5頚神経から第7頚神経に由来する腕神経叢から発生し、大胸筋と小胸筋を支配します。

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

胸筋神経は外側と内側の神経束からそれぞれ発生し、それらは腋窩動脈との関係から、動脈の外側を巡る枝は外側胸筋神経(通常はC 5-7 由来)、内側を巡る枝は内側胸筋神経(主にC8とTh1由来)に分類されます。外側胸筋神経は上部と中部の神経幹前枝からそれぞれ発生するため、胸筋神経の起源の根数は、外側・内側の各神経束からそれぞれ1本ずつ発生した2本の場合より、3本の方が多い(Hirasawa, 1931; 川崎,1940 a; 61.5%,森・松下,1941b;小原,1958; 荒川,1958 b)。起源の異常として、Hirasawa (1931)、荒川(1958 b)は、外側胸筋神経が上・中神経幹後枝から出る場合をそれぞれ1例、荒川(1958 b)は内側胸筋神経が尺骨神経、内側前腕皮神経から出る場合を各1例、そして吉田(1961)は、胸筋神経の一部が腋窩神経から出る1例を報告しています。

外側および内側の胸筋神経は、腋窩動脈の枝である胸肩峰動脈や大・小胸筋に独立枝として進入する下胸筋動脈(Kodama et al., 1987)、外側胸動脈などの起始部位で、正中神経ワナの近位と腋窩動脈の腹側でループ状に交通し、胸筋神経ワナを形成しています。胸筋神経ワナの内部では、上行線維と下行線維が交錯しており、場合によっては外側胸筋神経にC8とTh1成分が、また一貫して内側胸筋神経にC7成分が配されています。

浦(1937 a,b)によれば、小胸筋との位置関係から、頭側、中間、尾側の各胸筋神経が区別できます。頭側胸筋神経は小胸筋の上を通り、大胸筋鎖骨部と胸肋部の頭側半を通ります。中間胸筋神経は小胸筋を通り、小胸筋と大胸筋胸肋部の尾側半を通ります。尾側胸筋神経は小胸筋の下縁を迂回し、主に大胸筋腹部や皮幹筋の一部に分布するとされています。尾側胸筋神経の独立性は強く、他の胸筋神経との間には連絡がないとされています(相山、1973; 河西・千葉、1977)。森田(1944)は、胸筋神経を上枝、中枝、下枝に分け、中枝は浦(1937 a,b)の頭側胸筋神経の下部と中間胸筋神経(その一部)とから構成され、大胸筋の表面に時折出現する胸骨筋も支配しています。胸筋神経の分節構成を図68に示します。

胸筋神経ワナは、その起始との関係から、正中神経ワナと同様にC7とC8の分節間(C 7-8型)に形成されることが多いです。胸筋神経ワナの分節構成と形態の変異は、腕神経叢の叢構成の変化を反映しています。胸筋神経ワナは時には、胸肩峰動脈の胸筋枝、下胸筋動脈、浅上腕動脈によって貫通されることがある(Kodama et al., 1987; 相澤ら、1996)。また、通常と異なる分節間、もしくは下位の胸筋神経同士(最下位は内側前腕皮神経に由来)の間に形成されることもあります。ワナはまれに欠如します(Hirasawa, 1931; 川崎、1940 a; 鬼頭ら、1980; 千葉、1983 a、1984 b)。正中神経ワナと胸筋神経ワナの双方の分節構成がずれたり(浦、1937 a, b)、一方がワナを消失し他方がワナを所有するという不一致性には、腋窩動脈(深上腕動脈)の貫通部位の変化のほか、下胸筋動脈(浅上腕動脈)と浅肩甲下動脈の発達あるいは退化が関係すると考えられます(千葉、1983 a、1986)。図69を参照してください。山田(1967)は、C型腕神経叢では、腋窩動脈が浅肩甲下動脈の経路をとってワナ形成に関与しないため、結局、胸筋神経ワナが消失すると推論しました。

相山(1973)によれば、胸筋神経または尾側胸筋神経は、上腕前面、腋窩前壁、大胸筋下縁に分布する皮枝を出すことがある(20%)。また、大胸筋胸肋部と腹部の間を通り、大胸筋下縁付近の皮下に皮枝を分枝することもある(図70)。さらに、第2-第4肋間神経(Th2-4)の外側皮枝が大胸筋下部を貫通し、または胸肋部と腹部の間を通過して皮下に達する例が25%認められている。熊木ら(1975)は、胸筋神経由来で大胸筋を貫く皮枝を12.5%で観察している。これらの胸筋神経由来の皮枝は、内側前腕皮神経の上腕皮枝、肋間神経外側皮枝(肋間上腕神経)の前枝と合流し、互いに移行・補償すると述べている(河西・山本,1966; 相山,1973)。尾側胸筋神経は時折、大胸筋腹部に分布する前に、第2肋間神経外側皮枝と合流する(8.1%,河西・山本,1966; 7%,相山,1972, 1973)。したがって、肋間神経外側皮枝に筋枝が含まれる可能性が指摘された。また、第1、第2肋間神経外側皮枝が稀に胸筋神経と交通した後、大胸筋腹部(小胸筋)への筋枝と、大胸筋を貫く皮枝に分岐することが報告されている(0.4%,児玉ら,1987b ;2.8%,小泉・堀口,1992)。

外側胸筋神経(頭側胸筋神経)は、肩鎖関節やその周辺に分布し、時折鎖骨下筋神経を分枝し、稀に三角筋の前縁にも皮枝を分枝することがあります(山田、1984; 山田・萬年、1985)。胸筋神経ワナからは、肋間神経外側皮枝の本幹とは別に、固有胸壁に沿って前進する枝、すなわち壁外枝(熊木ら、1979)と同様に、胸鎖関節付近、第1、第2肋間隙の外肋間膜、骨膜に分布した後、胸骨の近くで大胸筋を貫いて皮枝となる枝が出ることもあります(熊木ら、1975; 山田、1984; 山田・萬年、1985)。稀にこの枝が外肋間筋にも筋枝を与えるという報告があります(2.5%、熊木ら、1983)。また、腕神経叢の背側部からも稀に、外肋間筋への筋枝が出るという報告があります(3例、児玉、1986)。それゆえ、胸筋神経と上位の肋間神経外側皮枝の前枝、前皮枝との移行関係が指摘されています(小泉・堀口、1992)。

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図68 胸筋神経の分節構成(右前面)(千葉, 1984b, 1988)

図68 胸筋神経の分節構成(右前面)

( )には、腕神経叢の22例[図61のC7-8型6例、C7間を通る(C7二分型)1例、C8間を通る(C8二分型)2例、A-C、B-Cの共存型2例、C型11例]の出現例数を示します。

I型では、3種類の胸筋神経はすべてC5-Th1から構成されます。II型では、頭側胸筋神経にC8-Th1が参加していません。III型とIV型では、頭側、中間、尾側の胸筋神経は、前者ではC5-7、C5-Th1、C7-Th1、後者ではC5-Th1、C7-Th1、C7-Th1から構成されます。V型では、頭側から順にC5-7、C7-Th1、C7-Th1から構成されます。頭側胸筋神経は主にC5-7、C5-Th1、中間胸筋神経はC7-Th1、C5-Th1、尾側胸筋神経はC7-Th1から構成されることが多い(表72)。

C 5-Th 1: 第5頚神経-第1胸神経の前枝、M: 正中神経、Mc: 筋皮神経、Pea: 尾側胸筋神経、Per: 頭側胸筋神経、Pin: 中間胸筋神経、U: 尺骨神経

表72 腕神経叢各枝の線維解析後の脊髄分節構成¹⁾