肩甲背神経 Nervus dorsalis scapulae
肩甲背神経は、主にC4とC5の頚神経由来の腕神経叢根から発生し、中斜角筋を通って走行する運動神経です。この神経は、肩甲挙筋と菱形筋を支配する重要な役割を担っています。
解剖学的特徴
- 神経の走行経路:
- C5神経根は通常、中斜角筋を腹側から背側へ貫通します。
- 菱形筋への経路では、C4は肩甲挙筋を貫通し、C5は肩甲挙筋の腹側を通過することが多く見られます(約80%)。
- 構成と変異:
- 最新の研究では、C4とC5の組み合わせが最も一般的(83.6%)とされています。
- C5単独の支配はわずか13.7%です。
- これは、C5単独支配が約80%とされてきた従来の認識とは異なります。
- 発生学的特徴:
- 肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋の支配神経は亜神経叢を形成します。
- この神経支配様式は、これらの筋群が発生学的に密接な関係にあることを示しています。
臨床的意義
- 神経損傷の影響:
- 肩甲挙筋と菱形筋の機能が低下します。
- 肩甲骨の位置異常と運動障害が生じます。
- 頚部手術や外傷時には特に注意が必要です。
- 主な症状:
- 翼状肩甲(肩甲骨内側縁の外側偏位)が出現します。
- 肩甲骨の挙上と内転が困難になります。
- 上肢の挙上動作に支障が生じます。
- 診断方法:
- 肩甲挙筋と菱形筋の筋力テストを行います。
- 肩甲骨の位置と動きを観察します。
- 電気生理学的検査で神経機能を評価します。
治療とリハビリテーション
- 保存的治療:
- 急性期は炎症管理と疼痛コントロールを優先します。
- 肩甲帯周囲筋のストレッチと筋力トレーニングを適切に行います。
- 正しい姿勢と動作の指導を実施します。
- 理学療法プログラム:
- 肩甲挙筋と菱形筋の選択的な筋力強化を行います。
- 肩甲骨の安定性を向上させるトレーニングを実施します。
- 関連筋群の協調性を改善する運動を指導します。
- 予防的アプローチ:
- 日常生活での適切な姿勢保持を指導します。
- 頚部周囲の筋バランス改善運動を指導します。
- 職場と日常生活での正しい動作方法を指導します。

J0929 (右側の頚神経叢と腕神経叢:模式図)

J0932 (右側の腕神経叢とその短い枝:前面からの図)

J0933 (右肩甲骨の神経:後方からの図)
日本人のからだ(千葉正司 2000)によると
肩甲背神経の定義は一定していない。肩甲挙筋枝を含むものから、単にC5の菱形筋枝を指すものまでが含まれます(加藤・佐藤、1978)。一般に、肩甲背神経は菱形筋の大きな部分と小さな部分に分布する神経を指します。
従来、肩甲背神経はC5の枝が長胸神経の根とは無関係に生じる場合が約80%と多数派で、長胸神経の上位根との共通幹から生じる場合が少数派であるとされてきました(表75参照)。時折、C4やC6の枝も参加します。
しかし、加藤・佐藤(1978)によれば、肩甲背神経はC4とC5が最も多く、C5の菱形筋枝と前鋸筋枝は神経叢基部で共通幹を形成することが多い(84.9%)。また、菱形筋に到達するまでに、C4は肩甲挙筋を貫通し、C5はその腹側を通るパターンが全体の2/3(79.6%)を占めると述べています(図62参照)。