肩甲背神経 Nervus dorsalis scapulae

J0929 (右側の頚神経叢と腕神経叢:模式図)

J0932 (右側の腕神経叢とその短い枝:前面からの図)

J0933 (右肩甲骨の神経:後方からの図)
概要
肩甲背神経は、主にC4とC5の頚神経由来の腕神経叢根から発生し、中斜角筋を通って走行する運動神経です。この神経は、肩甲挙筋と菱形筋を支配する重要な役割を担っています (Drake et al., 2020)。
1. 解剖学的構造
1.1 神経の起始と走行
- 神経根の構成
- 最新の研究では、C4とC5の組み合わせが最も一般的(83.6%)とされています (Chen et al., 2022)。
- C5単独の支配はわずか13.7%であり、これは従来のC5単独支配が約80%とされてきた認識とは大きく異なります (Chen et al., 2022)。
- C4単独やその他の変異パターンも稀に見られます (Loukas et al., 2019)。
1.2 神経の走行経路
- 中斜角筋との関係
- C5神経根は通常、中斜角筋を腹側から背側へ貫通します (Standring, 2021)。
- この貫通部位は個体差があり、外科的処置の際には注意が必要です (Loukas et al., 2019)。
- 肩甲挙筋との関係
- 菱形筋への経路では、C4は肩甲挙筋を貫通し、C5は肩甲挙筋の腹側を通過することが多く見られます(約80%)(Loukas et al., 2019)。
- この走行パターンにより、肩甲挙筋の損傷や手術時に神経損傷のリスクが生じます (Standring, 2021)。
1.3 支配筋
- 肩甲挙筋 (Levator scapulae)
- 起始:第1〜4頚椎の横突起 (Moore et al., 2021)
- 停止:肩甲骨上角および内側縁上部 (Moore et al., 2021)
- 機能:肩甲骨の挙上、下方回旋、内転 (Drake et al., 2020)
- 菱形筋 (Rhomboid muscles)
- 小菱形筋:第6〜7頚椎の棘突起から肩甲骨内側縁上部へ (Standring, 2021)
- 大菱形筋:第1〜4胸椎の棘突起から肩甲骨内側縁へ (Standring, 2021)
- 機能:肩甲骨の内転、挙上、下方回旋 (Drake et al., 2020)
1.4 発生学的特徴
- 神経叢の形成
- 肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋の支配神経は亜神経叢を形成します (Sadler, 2019)。
- この神経支配様式は、これらの筋群が発生学的に密接な関係にあることを示しています (Sadler, 2019)。
- 発生過程での体節由来の筋群の移動により、この特徴的な支配パターンが形成されます (Sadler, 2019)。
2. 臨床的意義
2.1 神経損傷の原因
- 外傷性損傷
- 頚部の鈍的外傷や穿通性外傷 (Moore et al., 2021)
- 牽引損傷(上肢の過度の外転や挙上)(Netter, 2019)
- スポーツ外傷(コンタクトスポーツ)(Magee, 2020)
- 医原性損傷
- 頚部手術時の神経損傷(特にリンパ節郭清時)(Standring, 2021)
- 鎖骨下静脈カテーテル挿入時 (Loukas et al., 2019)
- 斜角筋切除術時 (Chen et al., 2022)
- その他の原因
- 神経絞扼(中斜角筋通過部位)(Magee, 2020)
- 腫瘍による圧迫 (Moore et al., 2021)
- 炎症性疾患(神経炎)(Netter, 2019)