肩甲背神経は、第5頚神経由来の腕神経叢根から発生します。この神経は中斜角筋を通り、肩甲挙筋と菱形筋の下を走行し、これらの筋肉を支配します。
日本人のからだ(千葉正司 2000)によると
肩甲背神経の定義は一定していない。肩甲挙筋枝を含むものから、単にC5の菱形筋枝を指すものまでが含まれます(加藤・佐藤、1978)。一般に、肩甲背神経は菱形筋の大きな部分と小さな部分に分布する神経を指します。
従来、肩甲背神経はC5の枝が長胸神経の根とは無関係に生じる場合が約80%と多数派で、長胸神経の上位根との共通幹から生じる場合が少数派であるとされてきました(表75参照)。時折、C4やC6の枝も参加します。
しかし、加藤・佐藤(1978)によれば、肩甲背神経はC4とC5が最も多く、C5の菱形筋枝と前鋸筋枝は神経叢基部で共通幹を形成することが多い(84.9%)。また、菱形筋に到達するまでに、C4は肩甲挙筋を貫通し、C5はその腹側を通るパターンが全体の2/3(79.6%)を占めると述べています(図62参照)。
肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋の支配神経による亜神経叢の形成は、これらの筋群の発生学的な筋材料の近縁性を示すと考えられています(加藤・佐藤、1978;Kato and Sato, 1984)。通常、C5の神経根の背側に生じる肩甲背神経は中斜角筋を腹側から背側に貫通しています。
肩甲背神経(C5)は、稀に肋間神経(Th1,2)とともに上後鋸筋に分布します(木田・谷、1993)。また、上後鋸筋の脊髄神経前枝と後枝の外側枝による二重神経支配例(18.8%、熊木ら、1984)では、浅肋間神経(児玉、1986)のほかに、中斜角筋を貫くC8も参加するとされています。
表75 肩甲背神経の分節構成
C4 | C4-5 | C5 | C5-6 | その他 | ||
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Hirasawa(1931) | 200例 | 10.0% | - | 90.0% | - | - |
川崎(1940a) | 180例 | 2.8 | 2.8% | 91.7 | 2.2% | 0.6% |
森・松下(1941a) | 200例 | 5.0 | 2.5 | 91.0 | 1.0 | 0.5 |
式場(1947) | 112例 | 1.8 | 0.9 | 95.5 | 1.8 | - |
白松(1951b) | 280例 | 3.6 | 2.1 | 93.2 | 1.1 | - |
宮園(1958) | 90例 | 4.4 | 2.2 | 93.3 | - | - |
荒川(1958b) | 120例 | 1.7 | 0.8 | 91.7 | 0.8 | 1.7 |
加藤・佐藤(1978) | 73例 | 2.7 | 83.6 | 13.7 | - | - |
(出現頻度を%で表示.宮園, 1958に追加)
図62 肩甲挙筋と菱形筋の支配神経(左外側後面)(加藤・佐藤, 1978)
( )内は、73例中の出現頻度を示します。菱形筋には一般に、肩甲挙筋を貫くC4と肩甲挙筋の腹側を通るC5の2枝が分布する(III型)。2枝による支配では、C5が貫通して肩甲挙筋の背側に出る(II型)、背側と貫通の2経路を持つ(IV型)、C4が貫通と腹側の2経路を持つ(V型)、腹側の経路を取る(VI型)の各型が区別できます。C4の単独支配(I型)、C5の単独支配で、肩甲挙筋の腹側を通る場合(VI型)と貫通する場合(VII型)も認められます。