



J0924 (胸腔および腹腔にある左迷走神経:左側からの図)




J0934 (右の腕神経叢(鎖骨下部)が下から前に向かっている図)

J0975 (胸腔内の交感神経の右側境界線、前右側からの図)
1. 基本構造と構成要素
腕神経叢(Plexus brachialis)は、上肢の運動および感覚神経支配を担う重要な神経構造であり、第5~8頚神経(C5-C8)と第1胸神経(Th1)の前枝から構成されます (Standring et al., 2021; Moore et al., 2019)。この構成には個体差が認められ、約30.0%の症例で第4頚神経が、約1.0%で第3頚神経が参加する上方への変異、および約16.5%で第2胸神経が参加する下方への変異が報告されています (Kerr, 1918; Lee et al., 2014)。
2. 解剖学的走行
腕神経叢は前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)を通過し、鎖骨下を経て腋窩に至る経路をたどります (Drake et al., 2020)。特に、C8とTh1の神経根は鎖骨下動脈の前面を通過するという特徴的な解剖学的関係を示します (Moore et al., 2019)。
3. 神経叢の形成過程
腕神経叢の形成は、神経幹(Trunks)と神経束(Cords)の2段階で構成されます (Johnson et al., 2010)。神経幹は、上神経幹(C5、C6の合流)、中神経幹(C7単独)、下神経幹(C8、Th1の合流)の3つから形成されます。これらの神経幹はさらに前枝と後枝に分岐し、外側神経束(上・中神経幹の前枝)、内側神経束(下神経幹の前枝)、後神経束(全神経幹の後枝)を形成します (Standring et al., 2021)。
4. 主要分枝と機能分布
腕神経叢から分岐する主要な末梢神経には以下が含まれます (Moore et al., 2019; Drake et al., 2020):
5. 臨床的意義
腕神経叢は多様な臨床的病態に関与します (Spinner et al., 2017)。外傷性損傷としては、分娩時の牽引による上神経幹損傷(産科麻痺)や、交通事故・転落による頚部外傷が代表的です。病理学的変化としては、神経鞘腫などの腫瘍性病変や神経炎などの炎症性疾患が挙げられます (Spinner et al., 2017)。
6. 画像診断法
腕神経叢の評価には複数の画像診断法が相補的に用いられます (Chhabra et al., 2013)。MRI検査は神経走行の詳細な観察と形態学的異常の検出に優れ、CT検査は骨性構造の評価に適しています。超音波検査はリアルタイムでの動的評価が可能で、非侵襲的な観察に有用です (Chhabra et al., 2013)。
7. 発生学的特徴