腕神経叢 Plexus brachialis
基本構造と解剖学的特徴
腕神経叢は、上肢の運動と感覚を支配する重要な神経構造であり、以下の特徴を持ちます。
1. 基本構成と変異
- 主要構成:第5~8頚神経(C5-C8)と第1胸神経(Th1)の前枝から構成されます。
- 変異パターン:
- 上方への変異:第4頚神経(約30.0%)や第3頚神経(約1.0%)が参加します。
- 下方への変異:第2胸神経(約16.5%)が参加します。
2. 解剖学的走行
- 経路:前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)を通過し、鎖骨下を経て腋窩に至ります。
- 血管との関係:C8とTh1の神経根は、特徴的に鎖骨下動脈の前面を通過します。
3. 神経叢の形成過程
- 神経幹(Trunks)の形成:
- 上神経幹:C5、C6の合流により形成されます。
- 中神経幹:C7単独で形成されます。
- 下神経幹:C8、Th1の合流により形成されます。
- 神経束(Cords)の形成:
- 外側神経束:上・中神経幹の前枝から形成されます。
- 内側神経束:下神経幹の前枝から形成されます。
- 後神経束:全神経幹の後枝の合流により形成されます。
主要な分枝と機能
腕神経叢から分岐する主要な神経は、それぞれ特異的な支配領域を持ちます:
- 筋皮神経(Musculocutaneous nerve):
- 運動支配:上腕二頭筋、烏口腕筋、上腕筋を支配します。
- 感覚支配:前腕外側部の感覚を司ります。
- 正中神経(Median nerve):
- 運動支配:前腕屈筋群、手の外在筋の一部を支配します。
- 感覚支配:手掌側の大部分の感覚を司ります。
- 尺骨神経(Ulnar nerve):
- 運動支配:前腕屈筋の一部、手内在筋を支配します。
- 感覚支配:手掌尺側部、手背尺側部の感覚を司ります。
- 橈骨神経(Radial nerve):
- 運動支配:上腕三頭筋、前腕伸筋群を支配します。
- 感覚支配:上腕後面、前腕後面の感覚を司ります。
- 腋窩神経(Axillary nerve):
- 運動支配:三角筋、小円筋を支配します。
- 感覚支配:肩関節部外側の感覚を司ります。
臨床的意義