小後頭神経 Nervus occipitalis minor
小後頭神経は、頚神経叢から発生する知覚神経の最上部の枝である。第2-3頚神経(主にC2)から起始し、頚神経叢の一部を形成する(Gray & Standring, 2023)。後頭部と頚部の皮膚に感覚を与える重要な神経である。
【解剖学的走行】
胸鎖乳突筋の後縁に沿って上行し、耳介後方および後頭部外側の皮膚に分布する。特に、胸鎖乳突筋後縁の上・中1/3境界付近で筋の後縁から出現することが多く、この位置は臨床的に重要な指標となる(Moore et al., 2022)。
【神経の分枝と支配領域】
本神経は主に以下の二つの主要な枝に分かれる:
- 耳介枝:耳介後面上部と乳突部の皮膚を支配する。この枝は恒常的に存在し、感覚支配の重要な役割を果たす(Netter, 2023)。
- 後頭枝:側頭部および後頭部外側の皮膚を支配する。この枝は症例の半数以上に認められ、欠損する場合は大後頭神経が代償的に発達する。
【解剖学的変異】
小後頭神経には、以下のような重要な解剖学的変異が認められる:
- 神経の重複:2本の独立した神経として出現することがあり、それぞれが異なる走行経路を示す(Drake et al., 2023)。一方は通常の経路をとり、他方はより高位で胸鎖乳突筋後縁に出現する。
- 大後頭神経との関連:支配領域が重複し、様々な神経吻合が形成される。大後頭神経の発達度合いにより、支配領域の代償的な変化が生じる。
- 副神経との走行関係:前枝は副神経の前外側を、後枝は後内側を走行する。この位置関係は手術時の重要な指標となる。
【周囲の解剖構造との関係】
以下の解剖学的構造と密接な関係を持つ:
- 胸鎖乳突筋:神経は筋の後縁に沿って走行し、特に上・中1/3の境界部が重要な指標となる(Sinnatamby, 2023)。この関係は神経ブロックや手術時の重要な目印となる。
- 大耳介神経:頚神経叢から同じ高さで分岐し、並行して走行する。両神経の走行パターンを理解することは、臨床的に重要である。
- 大後頭神経:後頭部での支配領域が重複し、相互に吻合を形成する。この吻合関係は感覚支配の冗長性を提供する。
- 副神経:前枝・後枝との交差関係が重要な解剖学的特徴となる。この関係は手術時の神経温存において特に重要である。
【臨床的意義】