外転神経 Nervus abducens [VI]
1. 基本的特徴
- 第六脳神経に分類され、外側直筋のみを支配する純粋な運動神経である。
- 起始核は橋の背側部に位置し、橋の後縁正中線近傍から脳幹を出る。
- 頭蓋底を前進し、内頚動脈の外側を走行して海綿静脈洞を通過後、上眼窩裂から眼窩に入り、外側直筋の内側面に達する。
2. 解剖学的走行
- 橋・延髄錐体境界部から起始し、前方へ走行して鞍背外下方で硬膜を貫く。
- 海綿静脈洞内では硬膜鞘に包まれ、主として運動神経線維で構成される。
- 内頚動脈外側と交差して上眼窩裂に向かい、動眼神経分岐部外側、鼻毛様体神経下外側に位置する。
- 最終的に外側直筋内側面から筋実質内に進入し、運動性支配を行う。
3. 解剖学的変異と神経連絡
- 通常は単一の神経束(1条)として存在するが、稀に欠如や2条分布が報告されている。
- 欠如例では動眼神経下枝による機能代償が確認されている。
- 動眼神経、鼻毛様体神経、毛様体神経節長根との間に神経連絡(交通)を有する。
4. 機能と支配
- 眼球の外転(外側方向への回旋)運動を単独で司る。
- 外側直筋への単独支配神経であり、他の脳神経による機能代償は困難である。
- 水平方向の共同性眼球運動において重要な役割を担う。
5. 臨床的意義
- 外転神経麻痺により、眼球外転障害と複視(二重視)が出現する。