滑車下神経 Nervus infratrochlearis

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J0907 (右の眼窩の神経、第2層:上方からの図)

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J0908 (右眼窩と右上顎神経:右側からの図)

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J0917 (顔面神経:右方からの図)

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J1012 (右の眼窩隔膜:前方からの図)

1. 解剖学的構造

1.1 神経の起始と走行

滑車下神経は三叉神経第1枝である眼神経 (nervus ophthalmicus) から分岐する知覚神経である (Moore et al., 2022; Sinnatamby, 2021)。眼神経から分岐した後、上斜筋 (musculus obliquus superior) の下方を通過し、眼窩内側壁に沿って前方へ走行する (Standring, 2021)。眼窩内では滑車上神経 (nervus supratrochlearis) の内側枝と吻合して神経弓を形成することが知られている (Tubbs et al., 2015)。その後、眼窩内側部を貫通して眼窩前部に達する (Netter, 2023)。

1.2 神経の分布領域

滑車下神経は眼窩前部に到達すると眼瞼枝 (rami palpebrales) を分枝し (Netter, 2023)、上下眼瞼、内眼角部の皮膚、および涙嚢 (saccus lacrimalis) の感覚を支配する (Standring, 2021)。また、涙小管 (canaliculus lacrimalis) および涙道の感覚支配も担っている (Selhorst et al., 2020)。さらに、鼻背部の皮膚および結合組織にも分布する (Paulsen and Waschke, 2018)。主に眼窩内側部の知覚を担う重要な神経であり (Dauber, 2021)、眼窩周囲の感覚神経分布において重要な役割を果たしている (Oikawa et al., 2019)。

1.3 解剖学的変異

滑車下神経には解剖学的変異が存在することが知られている。約10%の症例で滑車下神経が欠如していることがあり (Kim et al., 2018)、また滑車上神経との吻合パターンには個人差が認められる (Hwang et al., 2016)。これらの変異は外科手術の際に考慮すべき重要な解剖学的知見である。

2. 臨床的意義

2.1 神経損傷と感覚障害

滑車下神経の損傷は、内眼角部周辺の感覚障害を引き起こす可能性がある (Drake et al., 2020)。特に眼窩手術や顔面外傷の際には注意が必要な神経である (Hayreh and Scott, 2019)。涙嚢炎の症状に関連して、この領域の感覚異常が生じることもある (Kakizaki et al., 2017)。

2.2 滑車下神経痛

三叉神経痛の一種として滑車下神経痛が報告されており (Kondrashova and Rothman, 2018)、内眼角部周辺の疼痛として臨床的に認識される必要がある。また、滑車上神経と共に、前頭洞炎や副鼻腔疾患の症状に関連することがある (Oikawa et al., 2019)。

3. 関連用語

4. 参考文献

主要教科書・図譜