
前篩骨神経は鼻毛様体神経から分岐する感覚神経である (Gray and Lewis, 2018)。この神経は眼窩内側壁に沿って前方に走行し、前篩骨孔を通過して頭蓋腔に進入する (Standring, 2020)。頭蓋内では篩板の上面を短距離走行した後、篩板を貫通して鼻腔内へと進入する (Netter, 2019)。走行中、前篩骨動脈に随伴して進む (Tubbs et al., 2019)。
鼻腔内に進入後、前篩骨神経は内鼻枝と外鼻枝の2つの主要な枝に分岐する (Netter, 2019)。内鼻枝は鼻中隔および鼻腔の前上部の粘膜に分布し、外鼻枝は鼻骨の下を通過して鼻背部および鼻尖部の皮膚に分布する (Drake et al., 2020)。また、前篩骨蜂巣および前頭洞の粘膜にも神経線維を供給する (Moore et al., 2022)。
前篩骨神経は主に感覚線維で構成されているが、交感神経線維も含んでおり、鼻粘膜の血管運動性調節に関与する (Moore et al., 2022)。鼻腔内では知覚神経として機能し、触覚、痛覚、温度覚を伝達する (Standring, 2020)。
前篩骨神経は鼻内視鏡手術および前頭洞手術において重要な解剖学的指標となる (Sinnatamby, 2021)。特に機能的内視鏡下副鼻腔手術(FESS)では、前篩骨動脈とともに眼窩内側壁の位置を示す重要なランドマークとして認識されている (Stammberger et al., 2020)。手術中の神経損傷は前頭部や鼻部の感覚障害を引き起こす可能性があるため、その温存が推奨される (Wang et al., 2021)。
前頭洞手術、篩骨洞手術、鼻中隔手術の際に前篩骨神経が損傷されるリスクがある (Sinnatamby, 2021)。損傷により前頭部の感覚鈍麻、鼻背部の知覚異常、鼻尖部の感覚障害などが生じる可能性がある (Wang et al., 2021)。また、神経の牽引や圧迫により一過性の神経症状が現れることもある (Lee et al., 2019)。
前篩骨神経の走行経路には個人差が認められ、前篩骨管の位置や形状にも多様性がある (Tubbs et al., 2019)。矢状面における前篩骨管の位置は、眼窩内側壁から頭蓋底までの距離に変異があり、これが外科手術のリスク評価において重要となる (Lee et al., 2019)。
稀ではあるが、前篩骨神経の欠損または重複が報告されている (Tubbs et al., 2019)。このような変異は術前のCTやMRIによる画像評価で識別可能であり、手術計画において考慮すべき要素となる (Wang et al., 2021)。