滑車神経 Nervus trochlearis [IV]
1. 基本的特徴と構造
- 脳神経の中で最も細い神経であり、第IV脳神経として分類される。
- 脳の背側面から唯一出現する脳神経であり、頭蓋内を最も長く走行することが特徴である。
- 滑車神経核から発生し、上斜筋のみを支配する純運動性神経である。
- 両側の滑車神経は、中脳の背側面で交差(滑車神経交叉)を形成し、対側の上斜筋を支配する。
2. 解剖学的走行経路
- 起始部:下丘の直後方、上小脳脚と上髄帆小帯の間から出現する。
- 頭蓋内経路:大脳脚の外側面に沿って前進し、海綿静脈洞に到達する。
- 海綿静脈洞内:動眼神経の外側から徐々に上方へ移動する。
- 眼窩内経路:上眼窩裂を通過後、上直筋と上眼瞼挙筋の起始部の上方を前内側に走行し、上斜筋に終末する。
3. 機能的特性
- 上斜筋の収縮を制御し、眼球を下方外側に回転させる。
- 眼球の内下方への運動と外方回旋を精密に調節する。
- 両眼の協調運動において重要な役割を担い、立体視の維持に貢献する。
4. 臨床的重要性
- 滑車神経麻痺の主症状:同側の上斜筋麻痺により、特に下方視での複視が出現する。
- 日常生活への影響:階段降下時や読書時に顕著な症状が現れる。
- 代償機序:頭部を健側に傾ける特徴的な姿勢(頭位傾斜)が見られる。
5. 解剖学的変異