嗅神経 Nervi olfactorius [I]
基本的構造と機能
- 第I脳神経であり、嗅覚情報の伝達を専門とする感覚神経である。
- 嗅粘膜には約1,000万個の嗅細胞が存在し、各細胞は双極性の構造を持つ。
- 無髄軸索からなる神経線維は、内側と外側の2列(各16~24本)の束を形成し、篩骨篩板を通過する。
- 軸索は嗅球に達し、糸球体層において嗅球ニューロンとシナプスを形成する。
解剖学的特徴と経路
- 神経細胞体(第一次ニューロン)は、鼻粘膜の嗅上皮に局在する。
- 末梢から中枢への経路:嗅上皮 → 篩板通過 → 嗅球到達という直接的な投射経路を持つ。
- 他の感覚神経と異なり、感覚細胞自体が一次求心性線維となる特殊な構造を有する。
臨床的意義と障害
- 主な障害要因:頭部外傷、上気道感染症、加齢性変化、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など。
- 症状:嗅覚低下(hyposmia)や嗅覚消失(anosmia)として現れる。
- 予後:再生能力は限定的だが、症例によっては経時的な機能回復が認められる。
発生学と再生
- 発生起源:嗅板から発生し、胎生期に前脳の嗅球原基へと軸索を伸長する。
- 成体における特徴:嗅上皮の基底細胞から新しい嗅神経細胞が継続的に産生される。
- この継続的な神経細胞の産生は、嗅覚系の可塑性と修復能力に寄与している。

J0902 (硬脳膜:上方からの図)