嗅球 Bulbus olfactorius
構造
- 嗅球は、20本以上の無髄嗅神経線維が終止する脳領域であり、ヒトでは退化傾向にあるが、層構造を維持している (Gomez-Nicola and Perry, 2015)。
- 表層から深部へ、嗅神経線維層、糸球層(嗅糸球形成)、僧帽細胞層の構造を持つ (Nagayama et al., 2014)。
- 糸球間には、ドパミンを含有する介在神経(糸球周囲細胞)が存在する (Cave and Baker, 2009)。
機能
- 嗅覚情報の第一次処理中枢として機能する (Wilson and Mainen, 2006)。
- 僧帽細胞は、嗅皮質への主要な出力ニューロンとして働く (Shepherd et al., 2004)。
- 介在ニューロンによる局所回路が、嗅覚情報の選別と調節を担っている (Lepousez et al., 2013)。
神経化学的特徴
- 嗅球内の主要な神経伝達物質として、グルタミン酸(興奮性)とGABA(抑制性)が使用される (Ennis et al., 2007)。
- ドパミン作動性の介在ニューロンは、嗅覚情報の微調整に重要な役割を果たす (Pignatelli and Belluzzi, 2017)。
- ノルアドレナリンやセロトニンなどのモノアミン系も、嗅覚処理の調節に関与している (Fletcher and Chen, 2010)。
発生学的特徴
- 嗅球は終脳由来の構造であり、胎生期に前脳胞から発生する (Treloar et al., 2010)。
- 成体でも、側脳室下帯から新生ニューロンが供給され続ける特殊な脳領域である (Lledo et al., 2006)。
- この神経新生は、嗅覚系の可塑性維持に寄与している (Lazarini and Lledo, 2011)。
臨床的意義
- 嗅球の機能障害は、嗅覚障害(嗅覚低下や嗅覚脱失)の主要な原因の一つとなる (Doty, 2012)。
- 加齢、外傷、ウイルス感染などにより、嗅球の構造や機能が影響を受ける可能性がある (Hummel et al., 2017)。