

J0831 (46.5mm頂殿長の人間の胎児の脳、右半分:左方からの図)

視床下溝は第三脳室の外側壁に位置する浅い溝状の構造であり、視床と視床下部を区分する明確な解剖学的境界を形成している (Mai and Paxinos, 2022; Nieuwenhuys et al., 2020)。この溝は室間孔(interventricular foramen, Monro孔)の後方から始まり、後交連(posterior commissure)の高さまで前後方向に延びている (Ten Donkelaar et al., 2018)。正中矢状断面において、視床下溝は視床の腹側面と視床下部の背側面の間に明瞭な境界線として観察される (Swanson, 2018)。
視床下溝は胎児期の脳発達過程、特に間脳の分化段階において形成される (Nieuwenhuys et al., 2020)。妊娠6〜8週頃に間脳が視床と視床下部に分化する際、両領域の境界部に溝が形成され始める (Parent, 2019)。この発生過程は、異なる神経核群の配置と神経回路の形成パターンを反映しており、脳の機能的区画化の重要な指標となっている (Swanson, 2018)。
視床下溝の背側には視床の腹側核群が位置し、腹側には視床下部の背側領域(視床下野、視床下核など)が存在する (Mai and Paxinos, 2022)。第三脳室の側壁に沿って走行するため、脳室造影や内視鏡検査において重要なランドマークとして機能する (Ten Donkelaar et al., 2018)。また、前後軸に沿った位置により、視床下溝は視床下部を前部、中部、後部に区分する際の基準点としても用いられる (Nieuwenhuys et al., 2020)。
視床下溝は第三脳室へのアプローチを行う神経外科手術において、極めて重要な解剖学的ランドマークである (Mai and Paxinos, 2022)。第三脳室腫瘍の切除、水頭症に対する第三脳室底開窓術、視床下部病変へのアプローチなどにおいて、視床下溝を同定することで視床と視床下部の境界を明確に認識し、重要な神経構造の損傷を回避することが可能となる (Ten Donkelaar et al., 2018)。特に内視鏡的手術では、視床下溝の視認が手術の安全性を高める重要な要素となっている (Parent, 2019)。
高解像度MRI検査において、視床下溝は視床と視床下部の境界を同定する重要な指標となる (Mai and Paxinos, 2022)。T2強調画像やFLAIR画像では、第三脳室の側壁に沿った線状の構造として観察されることがある。脳腫瘍、炎症性疾患、変性疾患などの診断において、視床下溝の位置関係を理解することは病変の正確な局在診断に貢献する (Nieuwenhuys et al., 2020)。
視床下溝周辺の病変は、視床症候群(感覚障害、視床痛など)と視床下部症候群(内分泌異常、自律神経障害、体温調節異常など)の両方を引き起こす可能性がある (Mai and Paxinos, 2022)。特に第三脳室近傍の腫瘍や血管障害では、視床下溝を境界として症状が異なることがあり、臨床症状から病変部位を推定する際の重要な手がかりとなる (Ten Donkelaar et al., 2018)。