山頂[第IV・V小葉]Culmen [IV et V]
解剖学的位置と構造
- 小脳虫部前葉の最も突出した隆起構造で、第1裂(小脳前切痕)の上方に位置し、小脳上面から明瞭に観察できる (Schmahmann et al., 2009)。
- 組織学的には小葉IVおよびVの2区分から構成され、それぞれ異なる細胞構築を示す (Voogd and Ruigrok, 2012)。
- プルキンエ細胞が密に配列し、顆粒細胞層も発達している。小脳皮質の三層構造(分子層、プルキンエ細胞層、顆粒細胞層)が明瞭に認められる (Voogd et al., 2014)。
機能的特徴
- 脊髄小脳路からの体性感覚情報を受け、四肢近位部および体幹の運動制御と平衡感覚の精密な調節を担う (Stoodley and Schmahmann, 2018)。
- 姿勢制御と運動の微調整に深く関与し、特に抗重力筋の緊張調節と歩行時の姿勢維持に重要である (Manto et al., 2012)。
- 運動学習、運動記憶の形成、および四肢運動の協調において中心的役割を果たし、運動の計画から実行までの過程を最適化する (Ito, 2013)。
臨床的重要性
- 山頂部の損傷により、体幹失調(truncal ataxia)、姿勢制御障害、および歩行時の動揺(gait ataxia)が特徴的に現れる (Buckner, 2013)。
- アルコール性小脳変性症では山頂部が選択的に萎縮し、特徴的な前方への転倒傾向と広基性歩行を呈する (Sullivan et al., 2010)。
- 脊髄小脳変性症(SCA6など)では、山頂部を含む虫部の萎縮が初期から認められ、平衡障害が主症状となる (Koeppen, 2018)。
- リハビリテーションでは、バランストレーニングと協調運動訓練により機能回復を図るが、神経可塑性を考慮した早期介入が重要である (Morton and Bastian, 2007)。
発生学的特徴
- 発生学的には菱脳唇から派生する原小脳から発達し、胎生6週頃から形態形成が始まる (Butts et al., 2014)。
- 胎生期の早期から分化が始まり、出生後も神経回路の成熟と髄鞘化が継続し、運動学習能力の発達と共に機能的成熟を遂げる。
- 発生過程ではEn1、En2、Pax2などの転写因子が重要な役割を果たす (Millen and Gleeson, 2008)。
神経連絡
- 脊髄小脳路からの苔状線維と下オリーブ核からの登上線維が主要な入力経路である (Apps and Garwicz, 2005)。