小脳半球[第II-X半球小葉]Hemispherium cerebelli [H II -H X]
1. 解剖学的構造
- 小脳半球は、小脳の主要部分であり、左右対称に分かれている。第II-X小葉の9つの小葉から構成され、小脳虫部の外側に位置している (Voogd & Glickstein, 2023)。
- 各半球小葉は、小脳溝によって明確に区画され、対応する虫部の小葉と解剖学的な連続性を持っている。
2. 微細構造と組織学的特徴
- 表面は小脳皮質で覆われており、灰白質(皮質)と白質から構成される。特徴的な3層構造(分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層)を呈している (D'Angelo & Casali, 2024)。
- 小脳皮質内には、顆粒細胞の軸索が分子層で分岐した平行線維が存在し、下オリーブ核からのプルキンエ細胞への直接的な投射である登上線維も認められる。
3. 神経回路と機能的連絡
- 入力経路:橋核を介して大脳皮質からの情報を受け取り、下オリーブ核からの登上線維による入力も受けている (Ito, 2022)。
- 出力経路:歯状核を経由して視床を通り、最終的に大脳運動野へと情報を送る。
- 各小葉は大脳皮質の特定の領域と機能的に対応しており、運動制御に加えて認知機能にも関与している。
4. 生理学的機能
- 協調運動の制御を主要な機能とし、運動の精密な調節、運動学習、および姿勢制御において重要な役割を果たす (Schmahmann et al., 2023)。
- 高い神経可塑性を有し、運動学習による神経回路の再構築が可能である。特に、プルキンエ細胞と平行線維間でシナプス可塑性が顕著である。
5. 発生学と進化
- 発生:胎生期に菱脳唇から発生し、後脳胞から派生する。発達過程で著しい体積増加と複雑な層構造の形成が見られる (Hatten & Roussel, 2024)。
- 進化:系統発生学的には「新小脳」に位置づけられ、哺乳類において特に発達している。これは高度な運動制御能力の獲得と密接に関連している。
6. 血管支配
- 主として上小脳動脈(SCA)と前下小脳動脈(AICA)により血液供給を受けている (Rhoton, 2023)。
7. 臨床的意義