菱脳 Rhombencephalon
1. 基本的な構造と解剖学的位置
- 菱脳は、後脳(橋と小脳)と髄脳(延髄)から構成される主要な脳領域である (Moore et al., 2020)。
- 脳の最も尾側に位置し、脊髄との連続性を持つ。
- 「菱形」を意味するギリシャ語のrhombosと、encephalonを結合した用語である。
2. 発生学的特徴
- 第4週終わり(第12段階)から、蓋板が菱脳蓋として薄く広がる (Sadler, 2019)。
- 菱脳蓋は中央部で最も広く、頭尾側で狭くなる菱形状を呈する。
- 菱脳峡として知られる中脳との境界部のくびれは、第4週中頃から形成される。
3. 脳室系の発達
- 菱脳室は第四脳室へと発達し、特徴的な菱形の腔を形成する (Crossman and Neary, 2021)。
- 当初、翼板と基板によって形成された左右の壁が外方に倒れ、最終的に脳室底を形成する。
- 菱脳蓋は間葉組織に裏打ちされ、第四脳室脈絡組織となる。
4. 神経核の形成と配列
- 基板と翼板では、胚芽層・外套層・縁帯が分化し、外套層に神経細胞が充填される (Purves et al., 2018)。
- 神経細胞は複数の灰白質塊(神経核)に分かれ、規則的に配列される。
- 基板では運動性核群(M1-M3)が、翼板では知覚性核群(S1-S4)が内側から外側に向かって分化する。
5. 特殊構造の発達
- 菱脳唇(翼板と蓋板の移行部)から重要な構造が発生する:
- 後脳の菱脳唇からは小脳が形成される。
- 髄脳の菱脳唇からは橋核とオリーブ核が形成される。
- 網様体は、神経線維間に散在する神経細胞によって形成される。