束間束

束間束は、脊髄内の異なる神経線維のグループをつなぐ軸索の束である。後索の主体を構成する薄束と楔状束の間に存在するコンマ形の領域をコンマ野と呼び、この部を形成する線維群をコンマ束という。この神経束の存在はWestphal (1880)によって最初に記載されたが、Schultze (1883)がコンマ束の名称を使ったことから、後年「Schultzesches Komma」の用語が広く使われるようになった。彼は、C4とC5のレベルで後根を横断したとき、手術巣から約2.5cm尾側のコンマ状の領域に変性線維の集団が出現することを記載した。コンマ束は、その位置から束間束または半月束とも呼ばれる。

典型的なコンマ状を呈する変性線維の束は、頚髄に侵入する後根を切断したとき、胸髄上部の後索で観察できる。しかし、その時もコンマ束の形状と出現位置は正確には一致しない。コンマ状を尾方に辿ると形が変化し、コンマの頭の部分だけになり、尾の部分がなくなる。胸髄下半分以下で後根を切断しても、腰仙髄の後索でコンマ束を認めることはできない。これらのことから、この固有束は頚神経と第1〜7胸神経の後根由来の付帯的な下行枝によって構成される神経束と考えられる。胸髄下半分とそれ以下の後根から進入する線維の下行枝は後索内で分散し、コンマ束としてまとまることはない。コンマ束は頚髄および胸部上半部に由来する後根線維の下行性分枝からなり、胸髄中央部以下に入る後根線維の下行枝はコンマ野に入らず、分散して下行枝となると考えられる。内在性の介在ニューロンの軸索の参加は完全には否定できないが、ある場合でもその数は少ない。

T7以下で後根を切断しても、コンマ束線維の変性は起こらない。後根線維の下行性分枝はコンマ区束、または中隔縁束、特に卵円野領域を主として下行するとみられる。人では、C5からC6後根線維の下行枝はT12レベルまで追跡でき、C8の切断でもT12まで辿れる。T4での切断では仙髄まで変性線維を追うことができる。これらの線維は後柱および後交連の領域に進入し、終末する。

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J0888 (神経束と神経節細胞群を含む脊髄の模式的な断面図)