1. 解剖学的特徴
脾臓は手のひら大の扁平な器官で、左上腹部(左季肋部)に位置しています。正確には第9〜11肋骨の高さで、胃の後方、横隔膜の下に位置しています(Gray and Standring, 2020)。大きさは約10〜12cm(長さ)、約7cm(幅)、約3〜4cm(厚さ)で、重さは約80〜150gです。形状は扁平な楕円形で、外側面は横隔膜に、内側面は胃に接しています。脾門以外の全表面は鞘膜(腹膜)で覆われ、その下には線維性の被膜があります。この被膜の結合組織は脾柱となり、脾臓内に柱状に入り込みます。脾柱と脾柱の間には細網線維が網を形成し、細網組織を形成しています。この網目を脾髄と呼ばれる組織が満たし、被膜、脾柱、細網線維網が脾臓の骨格を形成しています(Mescher, 2018)。
2. 組織学的構造
脾臓の実質は白色脾髄と赤色脾髄に分けられます。白色脾髄は脾(リンパ)小節(マルピギー小体とも言います)で、リンパ球が集まり免疫応答を担当しています(Cesta, 2006)。赤色脾髄はそれ以外の組織で、主に血液のろ過と古い赤血球の処理を行います。脾リンパ小節は直径約1mmで脾臓内に点在しており、その構造は一般のリンパ小節と同様で、中心には胚中心があります。ここでB細胞の増殖と抗体産生が行われます(Mebius and Kraal, 2005)。
3. 血管系と血液循環
赤色脾髄の構造を理解するために、脾臓に入った血管の経路を追います。脾門から入った脾動脈は脾柱に入り、脾柱動脈となり、次に脾髄に入り、脾リンパ小節を偏心的に通ります。この部分を中心動脈と呼びます(Steiniger et al., 2011)。一部の枝は脾リンパ小節内で毛細血管を形成しますが、主流はリンパ小節を出るとすぐに分岐し、筆毛動脈となります。そして、この枝は平滑筋を失い、特殊な細網組織の鞘に包まれた莢毛細血管と呼ばれます。内皮は長い柱状細胞で、鞘を形成する細網組織は細網線維と食作用を有する特殊な細胞からなっています。この構造は脾臓特有のもので、血液のろ過機能に重要な役割を果たしています(Bronte and Pittet, 2013)。
細動脈は次に最終毛細血管に移行し、脾洞に開きます。終末毛細血管や脾洞の外は脾索(Bilroth索)と呼ばれ、多数の血球や結合組織細胞を含んでいます。終末毛細血管が静脈洞に直接連絡しているか(閉鎖循環)、一旦脾索に開き、血液が一旦血管外に出た後に脾洞に回収されるか(開放循環)が古くから議論されてきました。動物による違いもありますが、現在ではヒトの脾臓は主に開放循環であると考えられています(Steiniger et al., 2011)。この開放循環によって、血液中の細胞や物質が効率的にろ過されることが可能になります。
4. 機能と役割
脾洞は非常に太い静脈性の類似血管で、隙間の多い縦に長い柱状細胞と呼ばれる内皮の外側を輪状線維と呼ばれる細網線維が取り巻いています。したがって、脾洞の壁は血液が容易に通り抜けます。脾索には赤血球、顆粒白血球、リンパ球、形質細胞など、さまざまな種類の細胞がありますが、特に大食細胞(マクロファージ)の存在が目立ちます(Lewis et al., 2019)。この細胞は血液とともに流れてきた異物や細菌、古くなった赤血球を取り込んで処理します(赤血球の寿命は約120日で、その後脾臓で処理されます)。そして、その抗原刺激を脾リンパ小節のリンパ球に伝えます(Kurotaki et al., 2015)。
5. 臨床的意義
臨床的には、脾臓は様々な疾患で腫大することがあります。感染症(マラリア、伝染性単核症など)、血液疾患(白血病、溶血性貧血など)、門脈圧亢進症、自己免疫疾患などで脾腫を呈します(Chapman and Vega, 2022)。極端な脾腫大は過脾症と呼ばれ、血球破壊が亢進し、汎血球減少を引き起こすことがあります。また、脾臓は外傷に弱く、腹部外傷では最も損傷を受けやすい臓器の一つです。重度の脾損傷では脾摘出術が必要になることがありますが、近年では可能な限り脾臓を温存する治療が選択されています(Di Saverio et al., 2018)。脾摘出後は感染症、特に莢膜を持つ細菌(肺炎球菌など)に対する感受性が高まるため、ワクチン接種などの予防策が重要です(Kruetzmann et al., 2003)。
参考文献