胸腺 Thymus

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J0756 (12歳の少年の胸腺と心膜:前方からの図)

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J0757 (12歳少年の胸部臓器:前方からの図)

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J0758 (右の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:右側からの図)

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J0759 (左の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:左側からの図)

1. 解剖学的特徴

胸腺は、上前縦隔に位置する扁平な臓器であり、解剖学的に重要な位置関係を持ちます。前面は胸骨後面に接し、後面は心膜、大血管(上大静脈、大動脈弓とその分枝)、左右の肺門に近接しています (Moore et al., 2023)。左右2葉からなり、各葉は頸部下部から第4肋軟骨レベルまで伸展します。大きさは年齢により大きく変化し、新生児期には体重比で最大(約15g)となり、思春期までに30-40gまで増大した後、加齢とともに退縮して脂肪組織に置換されます (Gray and Standring, 2024)。

2. 血管支配と神経支配

血管支配は詳細に把握すべき重要な解剖学的特徴です。動脈供給は主に内胸動脈からの胸腺枝と上甲状腺動脈からの分枝により行われます (Netter, 2023)。静脈還流は主に左腕頭静脈に注ぎ、一部は内胸静脈にも還流します。神経支配は、自律神経である迷走神経(副交感神経)と交感神経幹からの枝により行われています。リンパ流は、傍胸腺リンパ節を経由して気管気管支リンパ節に向かいます。

3. 外科解剖学的考慮点

外科解剖学的には、胸腺へのアプローチは主に胸骨正中切開により行われます (Shields et al., 2024)。重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術では、両側の横隔神経や左腕頭静脈を損傷しないよう注意が必要です。また、周囲の縦隔脂肪組織内に異所性胸腺組織が存在する可能性があり、これらの完全な摘出が重要となります。

4. 画像診断学的特徴

画像診断学的には、造影CTで胸腺は前縦隔に均一な軟部組織陰影として描出されます (Brant and Helms, 2023)。年齢とともに脂肪組織への置換が進み、CT値は低下していきます。MRIでは、T1強調像で筋肉と同程度の信号強度を示し、特に脂肪抑制像で胸腺実質と周囲脂肪組織との境界が明瞭となります。胸腺腫などの腫瘍性病変の評価には、造影MRIが有用です。

5. 臨床的意義

重症筋無力症患者の約15%に胸腺腫を合併し、約70%に胸腺過形成が認められます (Kumar et al., 2023)。このため、重症筋無力症の治療では、胸腺摘出術が重要な治療選択肢となっています。また、前縦隔腫瘍の約30%は胸腺由来の腫瘍であり、その術前診断と適切な外科的アプローチの選択が重要です。

参考文献