胸腺

胸腺は、心膜の前面から頸部下部に至る縦隔上部の正中線上に位置する非対称な臓器です。生後、特に小児期に発達し、思春期までに30-40gに増加しますが、その後は急速に退縮し、成人では脂肪組織に置き換えられます。かつては胸腺は内分泌器官に分類されていましたが、その組織構造と機能から見て、脾臓やリンパ節と同じように造血器官または免疫系に分類されます。

胸腺は発生学的には、左右両方の第3鰓嚢の内胚葉上皮から形成されます。胸腺を構成する細胞は、リンパ球、細網細胞、そして少量の大食細胞ですが、内胚葉上皮から由来するのは細網細胞のみです。リンパ球は胎児期には卵黄嚢から、生後は骨髄から由来する肝細胞が胸腺原基に出現し、そこで増殖分化してリンパ球になります。

組織学的に見ると、胸腺は結合組織による中隔によって分けられ、多数の小葉から構成されます。各小葉は、濃染する皮質と淡染する髄質からなり、髄質の中心部には、しばしばHassall小体と呼ばれる角化した上皮の不規則な塊が現れます。

胸腺は皮質と髄質に分けられますが、両者の区分は明確ではなく、細胞構成には両者の間にほとんど差がありません。すなわち、上皮由来の細網細胞が作る細網の網目には多数のリンパ球が含まれます。間葉系の細網組織と比較して、細網線維はほとんどなく、星状をなす細網細胞が互いにデスモゾームで結合し、細胞性細網を形成します。その細胞内には張力のある細糸を持ち、角化あるいは石灰化してHassall小体を形成する細胞は、重層扁平上皮の特徴を示します。

胸腺のリンパ球は形態学的には他のリンパ組織や血液中のリンパ球と区別がつかないですが、免疫学的には特有のTリンパ球です。

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J0756 (12歳の少年の胸腺と心膜:前方からの図)

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

外科系の雑誌における胸腺に関する報告は、胸腺腫に限定されています。

(1)重さ

年齢別の重量平均値については、日本法医学会課題調査委員会(1992)が詳しく報告しています。最大値は男性では12歳代で62.0 g、女性では10歳代で57.5 gとなっています。

(2)無形成,低形成

胸腺の無形成または低形成は免疫不全症を引き起こし、DiGeorge症候群のように複合奇形を伴います。胸腺リンパ体質は全身のリンパ組織が肥大し、小児や若年者の急死例に見られます(菊地・吉木、1996)。

(3)胸腺胸郭比

胸部X線像における胸腺胸郭比(2a/T a =第2肋骨前下縁の高さにおける胸腺陰影外側縁から正中線までの距離,r=仰臥位正面像における最大胸郭比)が0.45以上を示すものは、1歳未満では20%、1-3歳では10%、3歳以上では非常にまれである(古寺・平松、1982)。