
解剖学的構造
空腸静脈(Venae jejunales)は、小腸の近位部である空腸から血液を集める静脈群です。これらの静脈は、上腸間膜動脈の空腸枝に伴走する形で走行し、空腸壁から血液を回収します(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。
空腸静脈は通常10〜15本存在し、腸間膜内を走行しながら次第に合流していきます。これらの静脈は空腸の腸間膜付着部から始まり、腸間膜根部に向かって収束していきます。最終的に上腸間膜静脈(Vena mesenterica superior)に合流し、門脈系の一部を形成します(Netter, 2019)。
静脈壁の構造は、内膜、中膜、外膜の3層からなり、小腸の他の静脈と同様に弁を持つことがあります。空腸静脈は、回腸静脈とともに腸間膜静脈叢を形成し、豊富な吻合を持つことで、血液の還流経路に冗長性を持たせています(Standring, 2020)。
機能と生理学
空腸静脈の主要な機能は、消化・吸収後の栄養豊富な血液を空腸から肝臓へ運搬することです。空腸は小腸の中でも特に栄養吸収が活発な部位であり、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが腸粘膜から吸収されます(Barrett et al., 2019)。
吸収された栄養素の多くは、空腸静脈を通じて門脈系に入り、肝臓に到達します。肝臓では、これらの栄養素が代謝、貯蔵、または全身循環への放出のために処理されます。また、腸管で吸収された潜在的な有害物質も肝臓で解毒されます(Hall & Hall, 2020)。
門脈系の一部として、空腸静脈は肝門脈圧の影響を受けます。正常な門脈圧は5〜10 mmHgですが、肝硬変などの疾患により門脈圧が上昇すると、空腸静脈を含む腸間膜静脈系にも影響が及びます(Bosch et al., 2015)。
臨床的意義
**門脈圧亢進症:**肝硬変や門脈血栓症により門脈圧が上昇すると、空腸静脈を含む腸間膜静脈系にうっ血が生じます。これにより腸管壁の浮腫や、重症例では腸管虚血を引き起こす可能性があります(Garcia-Tsao & Bosch, 2010)。
**上腸間膜静脈血栓症:**空腸静脈が合流する上腸間膜静脈に血栓が形成されると、空腸を含む小腸の静脈還流が障害されます。これは腸管壊死を引き起こす可能性のある緊急疾患であり、激しい腹痛、血便、腹部膨満などの症状を呈します(Kumar et al., 2001)。
**腸間膜静脈硬化症:**長期的な便秘薬の使用などにより、空腸静脈を含む腸間膜静脈に石灰化や硬化が生じる疾患です。腹痛や腸閉塞様症状を引き起こすことがあります(Yao et al., 2014)。
**外科的考慮:**小腸切除術や腸間膜手術において、空腸静脈の走行と分布を理解することは重要です。血管の適切な処理により、術中出血を最小限に抑え、残存腸管の血流を維持することができます(Mulholland et al., 2020)。
**画像診断:**CTやMRIにおいて、空腸静脈の造影パターンは腸管虚血、炎症性腸疾患、腫瘍などの診断に有用な情報を提供します。特に造影CT検査での静脈相では、空腸静脈の描出が重要な診断的価値を持ちます(Horton & Fishman, 2003)。
**吻合と側副血行路:**門脈圧亢進症の際、空腸静脈と後腹膜の静脈系との間に側副血行路が発達することがあります。これは門脈血流を体循環へ迂回させる代償機構の一つです(Wanless, 2012)。
参考文献