前立腺静脈叢 Plexus venosus prostaticus♂

J0623 (男性骨盤の静脈、右半分、左方からの図)

J0804 (男性の尿生殖三角筋:下方からの図)

J0808 (男性骨盤:前面からの切断面)
前立腺静脈叢は、恥骨結合の下縁から前立腺の前面、およびその外側部の結合組織の中に発達した豊富な静脈網です。解剖学的には、前立腺被膜と恥骨前立腺靱帯の間に位置し、Santorini静脈叢とも呼ばれます (Gray and Standring, 2015)。この静脈叢は薄い壁を持ち、弁を欠くことが特徴です (Drake et al., 2019)。
解剖学的構造と血管連絡
血管構造としては、前方から恥骨結合の下縁を通って深陰茎背静脈が流入し、後方では膀胱下面および前立腺自体からの静脈も合流します (Netter, 2018)。上方では膀胱静脈叢と連結して内腸骨静脈へと血液を送り、外側では外腸骨静脈とも交通路を形成しています。また、下方では陰茎海綿体および尿道海綿体からの血液も受け入れます (Moore et al., 2017)。
臨床的意義
前立腺静脈叢は前立腺手術(特に前立腺全摘除術)において重要な解剖学的構造です。手術中の出血の主要な原因となるため、慎重な処理が必要とされます (Walsh and Partin, 2007)。また、前立腺がんの転移経路としても重要で、Batson静脈叢を介して脊椎への転移が起こりやすいことが知られています (Batson, 1940; Arya et al., 2018)。前立腺肥大症患者では、この静脈叢の圧迫により排尿障害が生じることがあります。加えて、骨盤内の静脈還流において重要な役割を果たし、静脈うっ血や前立腺炎の病態にも関与します (Roehrborn, 2011)。
参考文献
- Gray, H. and Standring, S. (2015) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 41st ed. Elsevier.世界的に標準とされる解剖学書。前立腺静脈叢の詳細な解剖学的記述がある。
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) Gray's Anatomy for Students, 4th ed. Elsevier.医学生向けに簡潔にまとめられた解剖学書。前立腺静脈叢の基本構造が図解されている。
- Netter, F.H. (2018) Atlas of Human Anatomy, 7th ed. Elsevier.精密な医学イラストで知られる解剖学アトラス。前立腺静脈叢の視覚的理解に最適。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2017) Clinically Oriented Anatomy, 8th ed. Wolters Kluwer.臨床的視点から解剖学を解説した教科書。前立腺静脈叢の臨床的意義について詳述。
- Walsh, P.C. and Partin, A.W. (2007) 'Anatomic radical retropubic prostatectomy', Campbell-Walsh Urology, 9th ed. Saunders.泌尿器科手術書。前立腺全摘除術における静脈叢処理の重要性が強調されている。
- Batson, O.V. (1940) 'The function of the vertebral veins and their role in the spread of metastases', Annals of Surgery, 112(1), pp. 138-149.Batson静脈叢を初めて記述した古典的論文。前立腺がんの脊椎転移経路の理解に貢献。
- Arya, M. et al. (2018) 'Prostate cancer metastasis: routes and implications for treatment', The Lancet Oncology, 19(11), pp. e562-e572.前立腺がんの転移経路に関する最新のレビュー論文。静脈叢を介した転移メカニズムを解説。
- Roehrborn, C.G. (2011) 'Male lower urinary tract symptoms (LUTS) and benign prostatic hyperplasia (BPH)', Medical Clinics of North America, 95(1), pp. 87-100.前立腺肥大症と下部尿路症状の関連についての総説。静脈叢の圧迫による症状発現メカニズムを説明。
『日本人のからだ(大久保真人 2000)』によると
東洋医学との関連性