総腸骨静脈 Vena iliaca communis

J0590 (男性右側の閉鎖動脈と下腹壁動脈:左側からの図)

J0618 (縦隔胸部の静脈、腹面図)

J0622 (男性の下大静脈、前方からの図)

J0623 (男性骨盤の静脈、右半分、左方からの図)

J0634 (腹部およびやや左側からの分娩後の胎児の血液循環を示す図)

J0786 (左側の骨盤壁を除去した後の男性の骨盤臓器:左方からの図)
総腸骨静脈は下肢と骨盤からの血液を心臓へ還流させる解剖学的に重要な血管です。その詳細な特徴と臨床的意義は以下の通りです:
解剖学的特徴
- 形成:左右ともに仙腸関節の前面で、内腸骨静脈(骨盤内臓器からの血液を集める)と外腸骨静脈(下肢からの血液を集める)の合流により形成されます (Moore et al., 2018)。
- 走行:第5腰椎体の前面で大動脈分岐部の右側に向かって上行し、左右が合流して下大静脈となります。この合流点は腰椎4-5番レベルに位置しています (Standring, 2020)。
- 右総腸骨静脈:右総腸骨動脈の後外側をほぼ垂直に上行します。長さは約4cmで、内径は約10mmです (Drake et al., 2019)。
- 左総腸骨静脈:右側よりも1.5~2倍長く(約6cm)、斜めに走行します。最初は左総腸骨動脈の内側に位置し、その後右総腸骨動脈の背側を横断して右側へ移動します。内径は約12mmと右側よりもやや大きいです (Drake et al., 2019)。
左総腸骨静脈の特徴と臨床的意義
- 右総腸骨動脈と第5腰椎の間で交叉し圧迫(May-Thurnerの解剖学的変異)を受けるため、内腔側に部分的な癒合(または内膜肥厚)が生じることがあります (May and Thurner, 1957)。
- この圧迫は左下肢の深部静脈血栓症(DVT)の素因となることがあり、May-Thurner症候群(腸骨静脈圧迫症候群)として知られています。特に若年女性に多く見られます (Cockett et al., 1965)。
- 加齢に伴い内膜肥厚が進行し、主に左総腸骨静脈と下大静脈の結合部上端で顕著に観察されます。60歳以上では約25%に見られるとの報告があります (Kibbe et al., 2004)。
静脈壁の構造
- 総腸骨静脈の壁は他の大静脈と同様に三層構造(内膜、中膜、外膜)を持ちますが、動脈に比べて弾性線維と平滑筋が少なく、膠原線維が多いため伸展性に富んでいます (Moneta and Porter, 2015)。
- 弁構造:総腸骨静脈には弁がないか、あっても不完全なことが多く、これが骨盤内圧上昇時の逆流の一因となります (Bergan et al., 2006)。
臨床的意義
- 骨盤内手術(特に婦人科・泌尿器科手術)における損傷リスク:総腸骨静脈は壁が薄く損傷しやすいため、術中の注意が必要です (Heniford et al., 1997)。
- 血栓症:特に左総腸骨静脈は解剖学的特徴から血栓形成のリスクが高く、下肢の深部静脈血栓症や肺塞栓症の原因となることがあります (Ouriel et al., 2000)。
- ステント留置:May-Thurner症候群に対しては、静脈内ステント留置が治療選択肢となります (Neglén et al., 2007)。
- 静脈フィルター:下大静脈フィルターが留置できない場合、両側総腸骨静脈にフィルターを留置することがあります (Kaufman et al., 2013)。