下大静脈

下大静脈は、下肢、骨盤、および腹部の大部分の器官から血液を受け取る主要な血管であり、第5腰椎体の右側で左右の総腸骨静脈の合流として始まります。それから脊柱に沿って大動脈の右側を上昇し、肝臓の後部を通過後、第八胸椎の高さで横隔膜の大静脈孔を通り抜けて胸腔に入り、すぐに右心房に注がれます。下大静脈に流入する枝には、総腸骨静脈、下横隔静脈、第3・第4腰静脈、肝静脈、腎静脈、右副腎静脈、右精巣静脈、右卵巣静脈、蔓状静脈叢などがあります。

日本人のからだ(大久保真人 2000)によると

下大静脈は、発生学的に見ると、主静脈、主上静脈、および主下静脈がそれぞれ異なる時期に左右に出現し、部分的に結合して消失することで形成されると考えられています。しかし、特に主上静脈の扱いについては複数の理論が存在し、一致した見解は得られていません(矢野・佐藤, 1980)。さらに、下大静脈の異常と性腺静脈(卵巣静脈および精巣静脈)との関係についての解析も存在します(佐々木, 1986)。その結果、発生学的に見て、左右の下大静脈は対称的な発生経過を辿るものではないと考えられています。

発生学的には、通常は右側の下大静脈が形成されますが、時には左側の下大静脈が形成され、これを左下大静脈と呼びます。下大静脈の異常には、左下大静脈が右下大静脈(通常の下大静脈)と共存する重複下大静脈、単独で存在する左下大静脈、下大静脈が奇静脈系に連結して心房には直接開口しない下大静脈欠損があります。

最近のCTスキャンやMRI等の診断機器の導入によって、これらの異常が多く発見されるようになりました。臨床的には下大静脈の異常は腎上部の異常と腎下部の異常に分けられますが、いずれも生命に直接的な危険をもたらすような重篤な症状はないとされています。

腎上部の異常は一般に下大静脈欠損と称され、左下大静脈の存在と下大静脈の肝部欠損症が合併したものです。左下大静脈は腹大動脈の左側を上行し、左右の腎静脈を受けた後、肥大した奇静脈系に接続します。

一方、腎下部の異常は下大静脈と尿管の交差関係が異常な例で、多くは右側に現れます。Preureteric vena cavaでは、尿管が下大静脈の後側を交差し、下大静脈と大動脈の間に現れた後、総腸骨動脈の前を下行します。Periureteric venous ringでは、下大静脈が分岐吻合して島を形成し、その中を尿管が静脈に前後から挟まれて通過します。

下大静脈の異常形態を系統的に理解するには、竹本ら(1978)の整理分類が参考になります(図100)。まず、正常な下大静脈(右下大静脈)を一極とし、それと対比するものとして左下大静脈をもう一極に置きます。重複下大静脈は両者の中間に位置します。このようにして下大静脈を3型に分け、さらに左右の下大静脈とその間の吻合枝の発達程度および走行の方向性に基づいて細分類します。

I: 下大静脈(正常型)

II : 重複下大静脈(63例、竹本ら、1978)

左右の下大静脈および両者間をつなぐV. interiliaca (Adachi, 1940)の発達程度の違いによって、以下のa, b, cに細分類します。

a: 右下大静脈が明らかに優勢なもの(13例)。

V. interiliacaの発達は良好で、一般に左下大静脈より大きく、左下から右上方に斜走します。

b: 左右の下大静脈の発達が良好なもの(48例)。

V. interiliacaの発達程度および走行により、以下の4型に細分類します。

b1: V. interiliacaの発達は良好で、左下方から右上方に斜走します(17例)。

b2: V. interiliacaがない、または発達が不良です(14例)。

b3: V. interiliacaの発達が良好で、横走します(6例)。

b4: V. interiliacaの発達は良好で、右下方から左上方に斜走します(11例)。