尺骨静脈 Venae ulnares
尺骨静脈は前腕尺側を走行する深部静脈で、尺骨動脈に伴行する2本の伴行静脈として存在し、近位で他の深部静脈と合流して上腕静脈へ連続する。臨床的には末梢静脈路確保、血栓、外傷、コンパートメント症候群、動静脈瘻作製計画などで重要であり、超音波やCTでの評価や穿刺時の動脈・神経損傷リスクに注意が必要である。
概要
尺骨静脈(ulnar veins)は前腕尺側を走行する深部静脈で、一般に**尺骨動脈(ulnar artery)に伴行する2本の伴行静脈(venae comitantes)として存在し、近位で他の深部静脈系(橈骨静脈など)と合流して上腕静脈(brachial veins)**へ連続する(Standring, 2021)。臨床的には、末梢静脈路の確保(特に超音波ガイド下)、前腕〜肘窩の静脈血栓、外傷・コンパートメント症候群、動静脈瘻作製計画、上肢静脈の画像読影(US/CT venography)などで理解が重要となる(Moore et al., 2023; Standring, 2021)。
解剖学的特徴(位置・層・走行)
1) 位置と走行(浅層→深層、遠位→近位)
- 尺骨静脈は前腕深層で、主に**尺側手根屈筋(flexor carpi ulnaris)**の深層〜**浅指屈筋(flexor digitorum superficialis)および深指屈筋(flexor digitorum profundus)**の間隙に沿って走り、**尺骨(ulna)**の近傍を近位へ向かう(Standring, 2021)。
- 多くは尺骨動脈の左右(内側・外側)に並走する2本としてみられ、動脈と静脈の間には結合組織性の隔壁が介在し、拍動により静脈還流が補助される構造的背景がある(Standring, 2021)。
- 近位へ進むにつれ、尺骨静脈は**橈骨静脈(radial veins)などと交通・合流し、肘窩〜上腕遠位で上腕静脈(brachial veins)**へ連続する(Standring, 2021; Moore et al., 2023)。
2) 起始(遠位端)と深掌静脈弓との連続
- 深部静脈系として、遠位では**深掌静脈弓(deep palmar venous arch)**や手根部の深部静脈網と連続し、前腕深部へ還流路を形成する(Standring, 2021)。
- 一方で、手背静脈網(dorsal venous network)から連続する橈側皮静脈・尺側皮静脈などの浅在静脈系とは、穿通枝を介して交通する(Standring, 2021)。
3) 隣接構造(神経・筋・腱・筋膜)
- 尺骨静脈の近傍には、前腕尺側で**尺骨神経(ulnar nerve)が走行するが、尺骨神経は主に前腕近位〜中部で尺側手根屈筋の深層(筋間)を走り、さらに遠位ではGuyon管(ulnar canal)**に入る(Standring, 2021)。
- そのため、手技(穿刺や外傷処置)では、「尺骨動脈・尺骨静脈(深層)」と「尺骨神経(比較的表在〜筋間)」の位置関係を解剖学的肢位で常に再確認する必要がある(Standring, 2021)。
血行動態・機能
- 尺骨静脈は、手・前腕尺側深部(筋群、骨膜周囲、深部静脈網)からの静脈血を受け、上腕静脈を経て腋窩静脈〜鎖骨下静脈へ還流させる(Standring, 2021)。
- 深部静脈は筋ポンプの影響を強く受けるため、前腕屈筋群の収縮・弛緩により還流が促進される(Standring, 2021)。
変異(解剖学的バリエーション)
- 前腕深部静脈は個体差が大きく、尺骨静脈は「2本の伴行静脈」以外に、部分的に単一化したり、橈骨静脈との交通が発達して主幹が相対的に変化したりする(Standring, 2021)。